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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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ベリアスに逃げた理由(ワケ)

 ハイーラはしばらく、押し黙ってしまった。

 しかし、その顔は先ほどまでとは異なり、今にも泣きそうな表情であった。


 バルディも急かすことなく、静かにハイーラを見つめるだけだった。


 アスティアノで、親戚から存在すら疎まれる。

 親戚から嫌われた経験のないペルセにとって、想像もつかない話だった。


「…親戚連中は、公私ともに、マールをアスティアノから追放しようと、動きました」

「公私ともに…?暗殺でも、行おうとしたのですか?」

「さすがに殺しは行いませんでしたよ。連中にとっては、それがせめてもの慈悲だったようですが」


 バルディの予想に対し、ハイーラは静かに否定する。


 …一体、どこに慈悲があったのか。

 聞いてる限り、慈悲どころか、マールへの恨みしか感じない。


 そう思っていると、マールが口を開いた。


「私〜、アスティアノだと死んでる扱いにされてるみたいなんですよね〜」

「ちょっ…!?」


 あまりに変わらない、いつものような間延びした声色。そんな声でいうものだから、ハイーラも反応が遅れたようだ。


 死んだ扱い。でも、マールは今ここにいる。

 どういうことなのか。


「…死亡扱い、ですか」

「よっぽど気に食わなかったんでしょうかね〜」


 バルディの確認に、マールはのほほんとした態度を崩さないままで答えた。


 気に食わない。そんな理由で、死んだことにされている、というのか。

 つい先程、自分は生きることを社会に認められたのに。マールは、社会で生きることを否定されている。


 ーーー納得できない。できるわけがない。


「…ただ、連中も、マールをアスティアノから追い出すために、相当ひどいことをしたようです」

「と、言いますと?」

「街で見かけたマールに、外から大きな石を投げつけて大怪我させたり、とか」


 再びハイーラがバルディに話し出した。しかし、それも聞くに堪えない内容だ。


 見かけただけで、攻撃される。その辛さは、ペルセにもよく分かった。

 ダスノム生まれだ、というだけで、自分もアンドレイスに理不尽に攻撃された。アレを、親戚から受けるというのか。


 ーーー想像しただけで、震えが止まらない。


「だから…マールは、アスティアノを出たんです。そんな、野蛮な親戚達が、いたから…」


 ハイーラは視線を下に落とした。その目から、涙が一粒、流れ落ちていた。


 バルディはハイーラから視線を外し、大きくため息をついた。


「…現在、マールさんがアスティアノにいることは、その親戚連中にはバレていないので?」

「多分、バレていません。ただ…いつ、バレるか…」


 ペルセは二人のやり取りを聞いて、ハッとした。

 思えば、マールは自分達が出かける時、面倒だと言って留守番をすることも多かった。


 しかしそれは、マールが傷つかないためだったのではないのか。そう思うと、マールがあまりにも気の毒になってきた。


 そう気付いた時には、ペルセはマールに抱き着いていた。


「…どうしたの〜?」


 マールは、変わらない。自分がダスノムの生まれだと知っても、何も変えてこなかった。

 それは、間違いなくペルセにとって救いだった。だが、同時に、マールも苦しんでいたのかもしれない。


 そう思うと、マールから離れる気にならなかった。


 マールは何も言わず、ペルセの頭を撫でてくる。

 どうしてそこまで、他人に気を使えるのか。自分へ、その気遣いを回さないのか。


 ペルセには、甚だ疑問だった。


「…それにしても、なぜ、そこまでご存知で?」

「マールと腐れ縁だ…というのもあるんですけど…。マールの親族や私の親族から直接聞いたんですよ」


 ハイーラの解答に、ペルセの頭をなでるマールの手が、ピタリと止まった。

 マールの様子を伺うと、少し驚いたような顔だ。


「マールの親族連中がやったこと、私の親族も含めて、私以外全員肯定したんですよね」

「それは…」

「だから…私も、親族とは縁切りました。そんなとこ、いたくなかったんで」


 ハイーラは、自ら関わりを切ったのか。でも、それも分かる気がする。ペルセにとっても、関わりたくない親戚だ。


 バルディは一瞬、言葉に詰まったようだ。しかし、すぐに持ち直したようで、軽く一息ついた。


「…これは、かなり重い案件ですね。私の方でも、調査してみます」

「えっ…?でも、バルディさんって、災害調査官では…」

「えぇ。ただ、ここまで首を突っ込みましたし、何より見過ごせる案件ではないので」


 バルディはこめかみをおさえながら、冷静に話している。その様子に、ハイーラも少し気が抜けたようだ。


「…ご心配なさらず。私を含めたサトゥニア直轄の悪魔達は、優秀な者達ばかりです。少なくとも、今この時点では」


 バルディはそう言うと、静かに立ち上がり、玄関へと向かう。

 ハイーラが慌てて、その後を追った。


「…辛いお話をさせてしまって、申し訳ありませんでした」

「い、いえいえ!そんなこと…!!頭上げてください!!」


 バルディは玄関前で、深々と頭を下げながら、落ち着いてそう言った。ハイーラは慌てて首を横に振っている。


 バルディはそう言われ、ゆっくりと頭を上げた。


「今回の件、私の方でも確認を行います。もし、お話が本当に真実ならば…その時は再度、私があなたがたの元に伺います」

「わ…分かりました…」


 ちゃんと、動いてくれる。やっぱり、バルディは悪い悪魔ではない。

 そう思って見つめていると、バルディは再び一礼し、その場から霞のように姿を消した。

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