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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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マールの地獄〜関係の崩壊〜

「…お気付きの通り、マールも私も淫魔…魔力を用いて他人を幻惑し、洗脳して翻弄する、搦手タイプの悪魔です」

「えぇ、そのようですね」


 淫魔、という種類がいるのか。マールもハイーラも、それに当てはまるということらしい。しかも、バルディはそれをすでに分かっていたようだ。


 ハイーラは、そのまま淡々と続けた。


「ただ、マールにはその幻惑する才が、まるでなかった。そのせいで、周りから『能無し』の烙印を押されたんです」

「酷いですよね〜」


 マールの呑気な態度に、ハイーラは顔をしかめる。

 一方のバルディは、うなずきつつ静かに話を聞いていた。


 ーーー何だか、マールの表情が、少し歪んでるような気がする。このまま、話しても、大丈夫なのだろうか。


 だが、そんな心配をよそに、ハイーラの話は続けられた。 


「その後の家の、親戚達の対応が…最悪だったんです」

「…ふむ?」


 その瞬間、ハイーラの顔が一瞬で曇った。その手元が、何だか忙しなく動いている。

 バルディは不思議そうに、そんなハイーラを見つめるだけだった。


 しばらくの、静寂。ハイーラは言いにくそうに、ただ唸っているだけだった。


 ーーーそんなに、言いたくないのだろうか。だが、ここまで聞いたら、気になって仕方がない。

 ペルセも、ハイーラに視線を向けていた。


 やがて、ハイーラが恐る恐る、口を開いた。


「あの連中は…手始めに、マールを一族から追放しました」

「…最初から、重いですね」


 その言葉を聞いたバルディの眉が、わずかに動く。明らかに、引いてる様子だ。


 ペルセも、閉口してしまう。しかも、ハイーラの口振りだと、まだありそうだ。


 ーーーこの先、何があるというのか。

 聞くのが、怖い。


「えぇ…しかも、追放した理由が…『才能無き者は汚点となる』、とかいう、意味の分からないものだったそうです。…ふざけてますよね」

「それは…その通りですね」


 ハイーラの言葉に、バルディは一筋の汗をかきながら、静かに共感を示した。


 才能が無いから、追放される。

 同じ理由でダスノムへ捨てられた自分自身と、似たような話だ。


 サトゥニアでその話を聞いた時、マールはどう思っていたのだろうかーーー。


 マールの方を見てみるが、相変わらず何を考えてるかよく分からない、のんきな表情だった。


「ですが、そんな理由で追放されて、戻ろうとしなかったのですか?」

「無論、戻ろうとはしてたみたいですよ。ただ、決して受け入れなかったそうです。それどころか…」


 ハイーラはそこまで言い切ると、顔を伏せた。

 よく見ると、机の上にあった手は、強く握り締められ、震えている。その隙間から、赤い液体が滲んでいるのが見えた。


「………マールに、壮絶なリンチをかけ、半殺しにまでしたそうです」


 ハイーラは心底忌々しそうに、顔を伏せたままで静かに言った。


 その瞬間、空気が凍りついた気がした。


 半殺し?ダスノムから来たばかりの自分を、何も言わずに助けてくれた、あの優しいマールを?しかも、親戚が?

 ペルセは、混乱した。まるで、理解ができない。


 そんなペルセと対照的に、バルディは落ち着いている。しかし、まぶたを閉じ、深呼吸をしている。その眉間には、シワが寄っていた。


「そんなこと、あったっけな〜」


 唯一、マールだけが平然としている。

 それも、ペルセにとっては分からなかった。なぜ、こんなに落ち着いていられるのか。


 ーーー辛くないわけが、ないのに。


「…もう十分お腹いっぱいでしょうけど…」

「まだ、何か…?」


 絶句してしまったバルディに、ハイーラは遠慮がちに声をかけた。


 ここから、さらに追加があるのか。どこまで、マールは酷い目に遭い続けたのか。


 ハイーラは顔を上げながら、話を続けた。


「それでも、親戚連中は満足しませんでした。マールが、自分達にとっての汚点が、アスティアノに存在することそのものを、疎むようになりました」

「…アスティアノでの存在を、疎む…?」


 マールの味わった地獄は、まだ終わらないのか。

 思わず、耳をふさぎたくなってしまった。


 ーーー話を聞いてるだけの自分でさえ、怒りに震えていることに気付いた。

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