公的な認知
あれから、数週間が経った。
ペルセは変わらず、アスティアノでハイーラやマールと穏やかに暮らしていた。
時に叱られ、時に笑い合う。ペルセの求めていた、平和な日常だった。
時折、サトゥニアに呼ばれ、力の制御訓練を受けることはあったが、それ以外は特に、何も起きていなかった。
制御が少しずつ上達してきたおかげで、またアスティアノの魔力玩具で、遊べるようになっていた。以前は手を触れるだけで止まっていた玩具も、今では問題なく動かせる。
それも、楽しかった。
平穏な日常を送る三人の家に、来客を知らせる、無機質な鈴の音が響いた。
「…お客さんだね〜」
「はいはい、行くわよ」
鈴の音を聞いたマールが、ハイーラに声をかける。ハイーラは渋々ながら、玄関へと向かった。
「お忙しい所失礼します。バルディです」
扉の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
ーーーよかった。不審者ではない。
未だに、お客さんの顔が見えないと、少し怖かった。
ハイーラはその声を聞き、迷いなく扉を開けた。
そこには、相変わらず真面目そうな見た目をしたバルディの姿があった。
「え〜と…何か、ご用ですか?」
「そう身構えないでください。今回は、いいお知らせですよ」
ハイーラは相変わらず、少し怯えている。しかし、バルディは優しい表情を浮かべている。
ハイーラはバルディを家に迎え入れようとしたが、バルディがそれを無言で制した。
「ペルセさんはいらっしゃいますか?彼女に関して、いいお知らせを持ってきましたよ」
「へっ?」
ーーー何だか、呼ばれた気がする。行った方がいいのだろうか。
迷っていると、バルディが懐から何か書類を取り出した。
「…詳しくは後ほど、ご覧くださればと思いますが…」
「こ、これって…」
書類を受け取ったハイーラが固まった。一体、何が書いてあるのだろうか。
「ペルセさんの正式な戸籍を、このアスティアノで発行できました。住所は暫定的ですが、ここの住所にしてあります。本来は別部署の案件ですが、あなたたちと面識のある私が伺った次第です」
ーーーやっぱり、バルディの言ってることは、あまり分からない。
戸籍とか住所とか、それがあったところで何なのか。
「…やっと、ペルセの存在が公式に認定された、ってことだね〜」
話を聞いていたマールが、お茶を飲みながらペルセに語りかける。
ーーーやっと、自分の存在が、ちゃんと認識された、ということか。
よくわからないが、それでも嬉しくなった。
「彼女の住所は、ここで大丈夫ですか?」
「…えぇ。むしろ、それがいいです。ありがとうございます」
自分が、堂々とハイーラの家に住める、ということか。
ずっと、ハイーラと暮らせる。
ーーーそれが、たまらなく嬉しい。
しかし同時に、1つ気になることが頭をよぎった。
「そういえば、マールさんはここに住まないの?」
その瞬間、ハイーラの肩が大きく震えた。
自分の記憶が正しいなら、マールの家は今いるここではなかったはずだ。
「マールさんって、確かベリアスに家があるよね?」
「ん?ん〜、そうだね〜」
マールは平然と答えている。しかし、その話を聞いたバルディの目つきが、少し鋭くなった。
「…アスティアノから、ベリアスに…?」
「あぁ…もう…!!」
バルディの様子に、ハイーラは肩を落としている。何かを諦めたようだ。
アスティアノからベリアスへ移動したことが、そんなに変なことなのか。不思議そうにバルディを見つめると、バルディはハイーラに目を向けた。
「少し、ご事情を伺っても?」
「…はい…」
ハイーラは観念したように、バルディを家へと招き入れた。




