ねじれた愛情
ーーーようやく、話が終わった。
長く、重い話であった。
「…はぁ…」
サトゥニアはペルセ達を見送った後、静かにため息をついた。
子供にはあまりに重すぎる話だった。気絶してしまったのも、無理はない。
自分だけになってしまった玉座の間を、改めて眺める。
ーーー否。
この部屋にいたのは、自分一人だけではない。その気配を、見落とすわけもなかった。
「…話は終わった。いつまで、そこで隠れているつもりだ」
一瞥すらせずに、隠れている者達に声をかける。
すると、今まで何もなかった空間に、一組の男女が姿を現す。
「わざわざ、魔力で空間を書き換えてまで隠れるとはな。…クロニオス、デメナ」
クロニオスとデメナ。あのペルセという小娘の実の両親。
高等な空間書き換えで、並みの悪魔では気付けない異次元に潜み、話を聞いていたらしい。
ーーー呆れたものだ。そこまで気になるのなら、姿を見せればよかったものを。
ふと、ずっと俯いているデメナの方へ視線を向ける。未だに、肩が上下している。
クロニオスは、そんなデメナの肩に優しく手を添えていた。
「…陰でずっと、泣いていたのか…」
「うるせぇ…あんなの、泣かずにいられるか…」
クロニオスは歯を食いしばってるようだ。言葉を紡ぐ様子にも、いつもの覇気がない。
ペルセが親に向けて発した言葉には、さすがに驚かされた。
ペルセは、親への恨みや悪口が出てきてもおかしくないはずの悲惨な境遇にも関わらず、あの言葉を出した。
ーーー親ならば、耐えられるものではないだろう。
「…本当に、良かったのか?名乗り出ずに」
それだけに、問わずにはいられなかった。
2人は、ペルセの親を名乗る資格がない、と言っていた。あくまでも、遠くから見守るつもりだ、と。
しかし、クロニオスの表情から見ても、それを本心から望んでいるはずがない。
「…俺らは、アイツが堕ちても、助けられなかった。一番辛い時に、側にいてやれなかった」
クロニオスは、それでも折れない。魔界の参謀らしからぬ、頑固さだ。
…そこには、参謀としての責任感も、背負い込んでいるのだろうか。
「あの子に会わねぇことが、俺らなりのケジメだ。できるのは…魔界の参謀として、世界を変えることだけだ。それが、俺らのできる、精一杯の償いだ」
クロニオスは真っ直ぐにサトゥニアを見ている。
ーーークロニオスなりの決心と覚悟のにじむ、迷いのない目だ。
だが…その判断は、あまりにも酷だ。
せっかく生きていた我が子との、親子の時間をあえて捨てている。
「…バカ者が」
「なんとでも言え」
呆れて、そんな言葉しか出せない。それでも、クロニオスにその考えを曲げるつもりは、微塵もないようだ。
すると、顔を伏せていたデメナが、ゆっくりと顔を上げた。その顔は、涙で腫れぼったくなっている。
「…あの子の元気な姿をこの目で見れただけで…私は、十分です」
「デメナ…」
…夫婦揃って、大馬鹿者だ。
ペルセそっくりなその顔に、「会いたい。抱き締めたい」というのが漏れている。
そこまで言われてしまっては、サトゥニアも何も言えなくなってしまった。
「…分かった。だが、あの子はこれから何回かくることになるだろう」
「えっ…!!」
言った途端に、デメナの顔が嬉しそうなものになった。しかし、すぐにその表情を隠した。
ーーー実に、分かりやすい女だ。
「あの子の力の制御を行うには、アスティアノの鍛錬では不可能だ。鍛錬の相手は、アモディエナに頼むつもりだ」
ペルセの力は、あのままでは危険すぎる。
クロニオス由来のあの力は、制御しなければ、また魔力災害を起こしかねない。
それを話しただけなのだが、デメナは嬉しそうだった。
ーーーこれは早めに、デメナ達をペルセと会わせた方がよいかもしれん。
サトゥニアは1人、密かに決心した。




