最底辺に堕ちた理由(ワケ)
いきなり質問を、と言われても、急に出るわけがない。
そもそも、ペルセは今まで話された内容を、半分も理解できていないというのに。
しかし、そんな中でハイーラが手を挙げた。
「それなら1つ、いいでしょうか?」
「…言ってみろ」
サトゥニアと周りの皆がハイーラに視線を向けた。
ハイーラはその視線に一瞬怯んだ。しかし、咳払いをして、すぐに話し始めた。
「ペルセちゃんが、このサトゥニアの悪魔の血統なのは分かりました。…それなら、なぜこの子は、ダスノムにいたのですか?」
ーーー言われてみれば、気になることだ。
自分がここの生まれだと言うのならば、遠く離れたダスノムにいた理由が分からない。
質問を受けたサトゥニアと、それを聞いていたアモディエナは、ハイーラから目を逸らし、どこか気まずそうな表情をしている。
しかし、サトゥニアはすぐに表情を戻し、再びハイーラへ視線を向けた。
「…ペルセが赤子の頃に、サトゥニアである事件が起きた」
しかし、サトゥニアの口調は、まるで昔話でもするかのような、穏やかで、感情の混じっていないものだった。
ペルセ達は息を呑んで、サトゥニアの話に耳を傾けていた。
「細かい部分は割愛するが…。結論だけ言えば、デメナの部下が独断で、娘であるペルセを、ダスノムに廃棄した、というものだ」
「……え…?」
今、何と言った?
自分を、ダスノムに廃棄?
ーーーしかも、他人の、よりによって偉い悪魔の子供を、勝手に?
意味が分からずにいると、ハイーラの方から震え声が聞こえてきた。
「…上司の子供を、独断でダスノムに捨てた…!?何で、そんなことが、できるんですか…!!」
ハイーラを見てみると、顔を伏せて、肩を震わせている。わずかに見えた口元は、明らかに食いしばっているようだった。
そんな中で、近くに座っているアモディエナが口を挟んできた。
「…その怒りももっともだ。その犯人は、『能無しは全てを不幸にする存在だから、捨てた』とほざいていた」
「なんて…勝手な…!!それで、子供をそんなふうに扱うなんて…!!」
ーーーこれが酷い話であることは、ペルセにも理解できた。しかし、隣に座るハイーラが先に声をあげてしまい、ペルセは言う機会を逃してしまっていた。
すると、今度はマールが口を開いた。
「でも〜…子供がいなくなったことには、気付かなかったんですか〜?」
…何だか、煽ってるのだろうかと思うような聞き方だ。本人にそのつもりはないのかもしれないが。
しかし、サトゥニアはそれにも表情を全く変えず、再び口を開いた。
「無論、気付いた。デメナもクロニオスも、サトゥニア中を駆け回って己の娘を探し回ったさ。だが…ダスノムに捨てたと、その犯人が吐いたのは…ペルセが行方をくらませて…2週間以上、経ってからだった」
2週間。
生まれてそれほど経っていない赤ん坊が、ダスノムのような環境に捨てられて、そんな長い期間経ってしまったらーーー。
ペルセでも、その結末が頭に浮かんでしまった。
「…そんなの…あんまりよ…!!あまりにも…!!」
ハイーラが、かつてないほど取り乱している。本来なら、ペルセが自分で起こす反応のはずなのに、代わりにされてしまう。
ペルセはどう反応すれば良いか分からず、ただサトゥニアの方を見つめるしかできなかった。
「我々としても、管理の不足があったのは事実だ。その事件を起こした犯人には、正規の裁きを与えたが…。両親は、ペルセを取り戻すことを…諦めてしまった」
サトゥニアはそこまで言うと、ペルセの前で、座ったままで深々と頭を下げてきた。
「…大変だったろうに、お前に手を差し伸べることができなかった。全て、私の管理・教育の不足…私の責だ。」
その礼は、机に額がつきそうなほど、深いものだった。ペルセはその光景を、ただ見ていることしかできなかった。
ペルセが呆然としていると、その背中にマールが手を添えてきた。
「…ペルセ、君のターンだよ」
「え…?」
「ここで色々、言いたいことあるんじゃない〜?このままだと、ハイーラが全部言っちゃうよ〜?」
ハイーラを見ると、頭を下げるサトゥニアを呆然と見ている。しかし、未だに何か言いたげに肩を上下させている。
言いたいこと。
両親に?サトゥニアに?…それとも、自分を捨てたという悪魔に?
いきなり言われても、言葉が、まるで出てこない。ペルセには何も思いつかなかった。
「…例えば〜…お父さんやお母さんに、何か言いたいこと、ないの〜?」
止まっているペルセに、マールが優しく問いかけた。




