両親への言伝
お父さんと、お母さんに言いたいこと。
何かないのかと言われても、やはり分からない。
自分にとっては、間違いなくオーレンが親だ。
血の繋がりはないかもしれないが、そんなのは関係ない。
「…もちろん、ダスノムでの育ての親もいるよね〜。それは、多分この場にいる、誰も否定しないだろうしね〜」
ーーーマールなりの、フォローのつもりだろうか。しかし、マールの手は、ペルセを包み込むように、背中に置かれたままだ。
だんだんと、思考がクリアになってきた。それと同時に、何だか胸から熱いものがこみ上げてくる。
なぜだろうか。我慢していないと、泣いてしまいそうだった。
しかし、言いたいことが、明確になってきた。
「…頭を、上げてください」
頭を下げ続けるサトゥニアに、声をかける。なんだか、自分の声が震えている気がする。
サトゥニアはそう言われ、ゆっくりと頭を上げた後、ペルセを見つめてくる。その表情は、先程とそれほど変わっていない。
「お父さんと、お母さんに…1つだけ、言いたいことがあります」
「…言ってみろ」
サトゥニアからも促される。だが、緊張しているせいか、口は上手く動いてくれなかった。
そんなペルセの緊張をほぐすように、マールは、優しく背中をたたき続けていた。
「何言ってもいいよ〜。悪口でも、文句でもね〜」
ーーーマールは、自分が悪口を言うとでも思ったのだろうか。何だか、調子が狂う。
とはいえ、肩の力は抜けた。これなら、言える。
「…私、正直、お父さんとお母さんを、恨んでいません。話聞いてる限りでは、ちゃんと、一生懸命、やってくれてたようなので」
「…なん、だと」
本心から言ってるつもりだったが、サトゥニアはかなり驚いているようだ。何なら、マールとハイーラも、動きを完全に止めている。
ーーーしかし、もう、ペルセの口は、自分でも止められなかった。
「だから…『私を、私として産んでくれて、ありがとう』と…。それだけ、です」
ーーー言い切った。
何とか、こみ上げてきたものを、抑え込めた。
だが、変な笑顔になってしまっているかもしれない。
実際、目の前にいるサトゥニアや、隣にいるマール達は、ただ、呆然とこちらの顔を見てくるだけだった。
しばらくの、静寂。
自分は、変なことを言ったのだろうか。それほどに、場が固まっていることが、ペルセにも分かった。
その静寂を破ったのは、サトゥニアだった。
「…分かった。クロニオスとデメナ…お前の両親にその言葉、責任持って私が伝えよう」
その言葉を発したサトゥニアの声と表情は、かつてないほど重々しかった。
何だか、胸につっかえてたものが、一気にとれたような、そんな気分だ。
ーーーこれで、良かったのか。ペルセには、分からない。
しかし、そこに後悔はなかった。
「…強いな、お前は」
「え…?」
サトゥニアが不意に、呟くように言ってきた。
それは、自分に言っているのか。こんな、非力な子供に。何かの皮肉なのか。
しかし、サトゥニアの様子は真剣そのものだ。
「…ダスノムからここまで来るのは、並大抵の苦労ではなかったはずだ。酷い目にも遭わされたと聞いている」
「………はぁ…」
話が見えず、間の抜けた肯定の返事しか返せない。
だが、なぜだか、胸が、目頭が熱い。気づいた時には、目から一粒の涙が、こぼれ始めていた。
「これは、魔王としてではなく、私個人として言わせてもらう」
涙が、止められない。
なぜ、ここで泣いてしまっているのか。ペルセは必死に、目を拭いながら、サトゥニアの話に、耳を傾けようとしていた。
「ペルセ。…ここまで、よく、頑張った」
その言葉が、ペルセの涙の量を、格段に増やしてしまった。




