明かされる、異常な血
クロニオス。尋問室でも聞いた名だ。
その名前を聞いたのは、今日が初めてだった。初めてのはずだった。
ーーーなのに、やはりどこかに懐かしさを感じる。
デメナの名前を聞いた時と、同じだ。記憶にないはずなのに、なぜか暖かさを感じた。
「なッ…ナンバー2…!?」
「それは…思ったよりもビッグネームだ〜…」
ハイーラとマールは、あまりに驚き過ぎて、口をあんぐりと開けている。普段の生活で、そんな顔を見せないだろう。
「念入りに調査をした。アモディエナの部下からもたらされた情報を元に、記録を洗い直した」
「バルディから報告を受けた時は、私も驚いた。まさかな…と」
サトゥニアとアモディエナは、それぞれ何かを思い出してるようで、視線が少し彷徨っている。
何だか、はぐらかされてるようで、少しモヤモヤしてきた。
「…結局、どういうことなんです?」
「…………ならば…ハッキリと結論を言わせてもらおう」
ペルセが直球で、サトゥニアに質問をぶつけた。それに対し、サトゥニアは、しばしの間の後、何かを決めたようにつぶやいた。
「貴様は、クロニオスとデメナ、その2人を両親に持つ、『サトゥニアの中でも異質な血統』の悪魔だ」
ーーー衝撃。
頭をぶん殴られたような衝撃が、全身を走る。
自分が、サトゥニアの血をひいてる?ダスノムにいたはずの、自分が?
クロニオスという悪魔がどんな者なのかは分からない。分かってるのは、アモディエナよりもさらに上にいる、ということだけだ。
しかし、デメナといえばーーー
「デメナ、って…。あの、尋問室でバルディさんを助けた、あの悪魔!?」
ペルセより先に、ハイーラが声をあげた。
そうだ。尋問室では、顔こそ見えなかったが、自分と同じような色の髪が印象的な、あの女性だ。
ーーーあの悪魔が、自分の母親だ、と。
いきなり言われても、理解が追いつかない。
しかし同時に、納得している自分もいた。
デメナとクロニオス、その2人の名前に、懐かしさと暖かさを感じるのも、両親だというのならばーーー。
「…その様子だと、デメナを見たことはありそうだな」
あまりの衝撃で、処理しきれずに固まっているペルセとは対照的に、サトゥニアは一人で納得している。
忘れるはずもない。暴れようとしたアンドレイスを、ほとんど何もさせずに、あっさりと無力化してしまえる、あの悪魔を。
自分は、あの女性の血を、ひいているのか。
あんな、圧倒的な悪魔の血を。
「…直接見たなら分かるかもしれないが…。デメナの魔力は、『魂』に干渉することができる。どこまでできるかは、私にも分からないが…幹部悪魔の中では、かなり異質な部類だ」
ーーーもう、自分の母親が分からない。もはや、想像すらできない。
しかし、サトゥニアの話は、まだ続いていた。
「だが…。アスティアノで起きた魔力災害の大半は、クロニオス…お前の父親由来の魔力だ」
サトゥニアはそう言い、改めて先程の図を示してきた。
「元々、サトゥニアの悪魔の持つ魔力というのは、アスティアノの魔力とは相容れない。質が違いすぎるからな」
「…だから、ペルセちゃんに、私の治癒魔力が届かなかったのですかね…」
サトゥニアの語りに、ハイーラが何かに納得したようだ。うんうんと、静かに頷いている。
「だが…ここまでの大規模な上書きを起こせるのは、クロニオスの魔力由来だろう。ナンバー2だけあって…その質は、アモディエナ達よりも、私に近いからな」
…もはや、理解が及ばない。
なにを言われてるのか、分からない。
周りは、話を理解できているのか。
「クロニオスや私の魔力は、強烈に『支配』に寄ってるものだ。その魔力が強く出たことで、周囲の…アスティアノの魔力を、完全に『支配』し、『上書き』してしまったのだろう」
「…もう、お腹いっぱいですね〜…」
サトゥニアの言葉に、とうとうマールが弱音を吐いた。やはり、マールにとっても重い話だったか。
サトゥニアはそれを受け、しばし唸った。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「…今までの話の中で、聞いておきたいことや、要望はあるか?」
サトゥニアは、ペルセをまっすぐに見ながら聞いてきた。




