アンドレイスの足掻き
善行。
ダスノムを滅ぼしたこと。
自分達を殺そうとしたこと。
大切な者を、奪い去ったこと。
ーーー全て、アンドレイスにとっては、「良い事」なのか。
そんな思いが、ペルセの中を巡る。知らないうちに、身体がこわばっていた。
「…アモディエナ様。このまま、処罰を与えますか?」
バルディは、まるで聞く価値がないとでも言うように、アンドレイスの言葉を無視している。手元にある機械に触れながら、アモディエナに連絡を取ってるように見えた。
ずっと静かに見ているだけだったアモディエナが、ようやく動き出す。
バルディの持つ機械と同様の機械を、懐から取り出した。
「…いや。この案件、私の裁量でも判断が難しい。被害があまりに甚大だ」
「では…どうされますか?」
バルディの問いに、アモディエナは一瞬、考え込んだようだ。まるで、少し躊躇ってるかのようだ。
しかし、それもほんのわずかな間だった。
「…私のさらに上…。クロニオスの元へ、判断を仰ぐこととする。そっちに、捕縛部隊を向かわせている、少し待て」
「………分かりました」
アモディエナの指令を受け、バルディは少し黙り込んだ後に、少し戸惑いながらも返事をした。
ーーークロニオス。
その名前を聞いたのは初めてのはずだ。
ーーーなのに、なぜだが懐かしいと思った。
しかし、その気持ちも、外からの音で無理やり遮られてしまった。
「けっ!ダスノムのゴミを庇うとは、結局テメェもゴミってことかよ!!」
「…はぁ…まだ言いますか」
アンドレイスが心底見下したかのように言い放ってきた。バルディはもはや、相手にする気もなさそうにため息をついた。
「ここ諸共消し飛ばしてやる…!俺を不当に拘束したこと、後悔するがいい!!」
アンドレイスは縛られたままだが、空気が張り詰めたのを感じる。
まずい。
あの男が、本気で魔力を出そうとしている。
こんな距離であの男がフルパワーで暴れようものなら、いくら何でもただでは済まない。
「ちょっ、アモディエナ様!?早く、逃げないと!!」
同じことを、ハイーラも感じたようだ。慌てて立ち上がり、アモディエナに声をかける。
しかしーーーアモディエナは、全く動かなかった。
「必要ない。落ち着け」
「しかし…!!」
「すぐに分かる」
ハイーラが慌ててる。
ーーーしかし、いくら待っても、何も起こらない。
アンドレイスも戸惑いを隠せないようで、辺りを見回している。
「…そういえば、一つ言い忘れてましたかね」
「テメェ…!!何しやがった!?」
バルディは呆れたように、しかししっかりとアンドレイスを見据えながら、ため息をついた。
アンドレイスは、そんなバルディを睨みつけていた。
一体、何があるだろうか。
そう思っていると、バルディが静かに口を開いた。
「何をしたかも何も…。ここでは例外なく、アスティアノの魔力が一定量以下しか出せないのですよ」
「何だと…!?」
「ですので、魔力戦闘は不可能です」
ーーーバルディの説明は、相変わらずよく分からない。ただ、あの男の力が出せない、ということだけは分かった。
アンドレイスはそこにも声を上げようとした。
しかし、何かに気付いたようで、ふと動きを止める。そのまま、自身を縛る縄の方に視線を落としている。
「ですので、大人しくーーー」
「…そうは…いくかぁ!!」
あろうことか、アンドレイスは力任せに縄を引きちぎった。
何度も暴れたせいで縄が緩んでいたのか、それとも元々限界だったのか。
どちらにしても、バルディが危ないことだけは分かる。
縄を振り解いたアンドレイスは、目の前にいるバルディに襲いかかる。
「ちょっ…!!」
「あら〜」
光景を目の当たりにしたハイーラとマールも、さすがに焦っている。このままではーーー。
そう思っていても、アンドレイスの動きは止められない。アンドレイスは、近寄ってきたバルディに向け、拳を振り上げた。




