空っぽの敵意
ゴミ。
ペルセが散々言われてきた言葉。
まさか、バルディの口から、それが出てくるとは思わなかった。
「あぁそうだ!ダスノムはゴミだ!ゴミは処分されるのが、世の常よ…!」
「…だから、処分する、と?それに、命があったとしても?」
「…何言ってんだお前?」
アンドレイスの語る内容は、やはり全くもって理解できない。それは、バルディも同じだったらしい。心底、不思議そうな表情をしている。
「ゴミに命なんて、面白い冗談だ!ダスノムにあるモノは、全て処分対象!そこにいる時点で、生きてる価値なんざねぇよ!!」
アンドレイスは高笑いしている。
こんな考えを、なぜあんなに笑いながらできるのか。こんなふざけた考えで、オーレンは殺されたのか。
ーーーもはや、怒りすらも湧いてこなかった。
「あそこには、生きている悪魔達もいたはずです。それらも全て、無価値だと?」
「…無価値なんて生温い…!もはや、害しかねぇだろうが!!あそこにいたってだけで、ベリアスでもアスティアノでも、害しか与えねぇよ!!」
バルディは、それでも顔色も声色も全く変えていない。ずっと、淡々としている。
ふと、アモディエナの方へ視線を向けてみる。アモディエナも、特に何も言葉を発することなく、ただ見ているだけだった。
「俺が犯罪者だとか言うつもりならなぁ…!あの、ダスノムの存在こそ罪なんだよ!!」
アンドレイスは、これまでになく熱のこもった叫びをあげた。
ダスノムの存在が、罪…?自分は、生きているのが罪だと、あの男はそう言いたいのか。
バルディもアモディエナも、その発言に対し、何も反応していない。しかし、バルディの纏う空気が、確実に変わっている。
アンドレイスはそれに対し、鼻で笑った。
「それが、この魔界の常識だ。分かったらとっとと俺を解放しろ。そして、ダスノムを消す手伝いをしろ」
「…お断りします」
バルディは、アンドレイスの要求を、冷たく、しかしハッキリと拒絶した。
しばらくの、沈黙が流れる。誰も、何も言わない。
しかし、アンドレイスの肩が、大きく震えているのが分かる。
「話聞いてたかぁ!?俺の行為は正しいんだ!!どこに要求を断る理由がある!?」
「…言わないと、分かりませんか?…だとするなら、私はアナタを買い被っていたようだ」
何だか、不穏な空気だ。これ以上は、止めたほうがいいのではないのか。
再び、アモディエナの方へ視線を向ける。しかし、これを見ても、アモディエナは動く様子がない。
アンドレイスは、拘束がなければ今にも飛びかからん勢いだ。しかし、バルディはそれでも動じていない。
このままだと、ここで2人が大喧嘩してしまうのではないか。ペルセは、オロオロしながらその光景を見続けていた。
「ならアレか!!テメェは害しかねぇものを丁寧に守ろうってのか!?」
「罪人は裁くのみです。しかしながら…ダスノムの者達が、アナタに何かしたのですか?なぜ、そこまで敵意を向けるのです?」
「あぁ!?」
バルディはあえて、アンドレイスから視線を外した。アンドレイスは椅子をガタガタさせながら、体を大きく揺らしている。ペルセには、子供が駄々をこねているように見えた。
これが本当に、自分の大切なものを奪った男なのか。
子供の自分よりも、子供に見えてしまう。
バルディの問に対し、アンドレイスはゆっくりと口を開いた。
「…何も、されてねぇよ。だが…」
そこまで言って、アンドレイスは、ペルセ達のいる方を見てきた。
向こうから自分の姿は見えてはいないはずなのだが、何だか背筋が伸びてしまう。
しかし、それも一瞬だった。すぐに、アンドレイスは視線をバルディに戻した。
「…俺がやってるのは、魔界の大掃除という、『善行』なんだよ…!!」
イラつきを隠すことなく、アンドレイスはバルディを睨みつけながら、はっきりと答えた。




