明らかなる上下
アンドレイスとバルディが、何も言わずに向かい合っている。
しかし、その関係は、対等には見えない。
直立しているバルディが、椅子に縛られているアンドレイスを見下ろしている。かつて自分を見下していたその男を、ペルセ自身がさらに見下ろしている。
ーーー何だか不思議な感覚だった。
「さて、それでは尋問を開始します。記録も行っていますので、迂闊な言動はお控えいただくようーーー」
「黙れ!!テメェは何者だ!!ここはどこだ!!」
冷静に書類を読み上げているバルディに、アンドレイスが食ってかかる。わずかに見えるその表情は、明らかな怒りだった。
「…本当に、エゴイストよね…」
「自分が何か悪いことをしたって心当たり、何一つないんだろうね〜…」
隣にいるハイーラとマールが、呆れたように呟いている。しかし、尋問室にいるアンドレイスは、その言葉に全く反応していない。
ーーー本当に、声も聞こえていないようだ。
すごい技術があるものだ。こちらから見た感じだと、普通のガラスにしか見えないのに。
ペルセが感心していると、バルディが再び口を開いた。
「…言葉を慎んでください。アナタは重要参考人として、ここに連れてきています。話を聞いたうえで何もなければ、すぐに解放しますよ」
「拘束を解け!!俺が何をしたと言うんだ!!」
「…初対面の私に襲いかかってきたような者の拘束を解くなど、するわけないでしょう…」
アンドレイスはバルディにも襲いかかっていたのか。あの男、ダスノムを見下しているだけではなかったのか。ペルセには、あの男が分からなくなってきていた。
実際、バルディも呆れたような声色だ。だが、アンドレイスはそれに気づいていないようだった。
「あなたを連れてきたのは、先日アスティアノにて発生した魔力災害について、その場に居合わせたという確証があったからですよ」
「…ッ…!!あの時言ってた一件かよ…!!」
バルディの説明に、アンドレイスは少し冷静さを取り戻したようで、声色が少し落ち着いた。しかし、イラつきは隠せないようで、貧乏ゆすりは止まらなかった。
「…少し、落ち着きましたか?」
「何が聞きたいってんだ…!!」
バルディの問いかけは穏やかだったが、アンドレイスはそれにすら敵意を見せている。
普通に答えることはできないのか。子どもの自分でさえ、できたことなのに。
「…当事者達の証言で、アナタがあの場にいて、かつ暴れたことは分かっています。…なぜ、あの場でそのようなことをしたのですか?」
「ダスノムのゴミがあったからだよ!!処分しようとして何が悪いんだ!?」
バルディの問に対し、アンドレイスは声を荒げた。いきなりの怒声に、ペルセは肩を震わせる。
怖い。
あの時の、襲ってきたアンドレイスの表情が、声色が、頭によぎった。
怖い。
あの時と、何も変わってない。
震えていると、ペルセの肩にそっと、優しく手が置かれた。見てみると、マールの腕が伸びてきていた。
「…大丈夫。………大丈夫だよ〜」
マールはそう言いながら、優しく肩を叩いてくる。
視線は、こちらには向いていない。
ーーーにも関わらず、恐怖がかなり和らいできた気がする。
気付けば、ペルセの肩の震えが、止まっていた。
これで、ちゃんと目の前の光景に向き合える気がした。
「…あんたって…ホント、ズルいわよね…そういうとこが」
「ん〜?ふふふ…」
ハイーラが何だか、少し口を尖らせている。珍しい表情だ。
マールもそれに対し、何も答えず、ただ楽しそうに笑ってごまかすだけだった。
ズルいとは、いったい何なのか。どこにそんな要素があるのか。なんとなく、気になった。
その時だった。
「…ゴミ、ですか」
バルディの低く、冷たい一言が、ペルセの視線を尋問室へと戻した。




