尋問の前触れ
「…分かった。案内しよう。バルディ、貴様は尋問室へ向かえ」
「…………承知しました」
アモディエナはゆっくりと立ち上がり、バルディの方を見る。バルディは、何か言いたそうにアモディエナを見つめていたが、頭を下げてその場から一瞬で姿を消した。
「…私達も向かうぞ」
アモディエナはバルディを見届けた後、ペルセ達の方へ視線を向けてきた。
ペルセ達はその視線を受け、3人同時に、静かに立ち上がった。
「行くぞ。こっちだ」
アモディエナはそのまま背を向けて、静かに歩き始めた。ペルセ達はそのあとを追っていく。
ーーー暗い通路だ。先程までいた部屋とは違い、通路の中の灯りは、時々灯っているロウソクだけだ。その炎も、時折揺らめいており、消えてしまいそうだった。
黒いすーつに身を包んだアモディエナ達を、薄暗い空間で見失わないようにするのも大変だ。
足音と自分の吐息だけが、ペルセの耳に入ってくる。隣にいるマールやハイーラも、息を潜めながら歩いているのが分かった。
「…ここだ」
少し歩くと、そこには漆黒の扉があった。扉は、黄色く装飾されている。この薄暗い中では、黄色い装飾がなかったら、存在に気づけなさそうだ。
アモディエナはその扉をゆっくりと開けた。ロックの解除される音が、やけに大きく響いた。
ペルセ達は、アモディエナの案内に従い、部屋に入った。
部屋の中は、通路と同様に薄暗い。しかし、辺りを見回すと、一箇所だけ光の差し込んでいる場所があった。
「これって…」
光に釣られるように、ペルセはその場へ向かい、中を覗き込んだ。
すると、眼下に広がる部屋が見えた。そこの中心に、例の男ーーーアンドレイスがいた。
アンドレイスは椅子に座らされている。しかし、その腕は後ろに回されており、椅子に縄で縛られている。
ペルセのいる位置からでは、その表情を見ることはできない。しかし、絶えず貧乏ゆすりをしている。
そんなアンドレイスの様子を観察していると、ペルセ達のいる部屋が、いきなり明るくなった。
思わず、辺りを見回した。
ーーー天井の明かりが、灯されていることに気づいた。
「…こんな暗い部屋の中では、不安も募るだろう」
アモディエナはそう言いながら、どこからか持ってきたイスを三脚、先程の部屋が見える位置に設置した。
ーーーその位置で座ってみると、下の部屋がよく見えた。
マールとハイーラも、ペルセの隣に腰掛ける。
ハイーラは訝しげに、部屋の方を見下ろしていた。
「…アモディエナ様。…これ、向こうから私達が見えたりしないでしょうか?」
「む?」
ハイーラの質問に、ハッとさせられた。
こちらが相手を見れるなら、逆に相手も見れる。確かに、それを考えていなかった。
ハイーラはさらに、言葉を紡いだ。
「もし仮に、アンドレイスが私たちを認識しようものならーーー」
「それについては、一切心配はいらぬ」
ハイーラの言葉を封じるように、アモディエナが口を開く。
そこまで言い切るとは、余程自信があるのだろうか。ハイーラが不安そうに、アモディエナを見つめている。
「この小部屋は元々、私を含めた上役が、尋問を直接監視するために作った小部屋だ。向こうからこちらを認識することはできないようになっている。話し声も含めてな」
「え…あ、そうなんですか…」
「うむ。ペルセにも分かるように言うなら…こちらの姿も音も、あのアンドレイスという男は認識できない、といったところか」
ーーーそんなことが可能なのか。
こちら側は観察できるのに、相手はそれに気付くことすらないなど。あまりに一方的に思えた。
とはいえ、今回に限って言えば、それが安心ではある。しかし同時に、どこか落ち着かない気持ちもあった。
「…クソが…!!何だってんだよ…!!」
部屋の方から、アンドレイスの不満そうな独り言が聞こえてくる。その間も、イライラした様子で貧乏ゆすりを続けている。
すると、扉の開く、重々しい音が聞こえてくる。その直後、静かな足音が響いてきた。
アンドレイスは、足音の聞こえる方へ顔を向けているようだ。そして、次の瞬間ーーー
「…テメェ!!あの時の!!」
アンドレイスが大きく身を乗り出した。しかし、縛られている状態では限界があるようで、あまり大きく体を動かすことはできないようだ。
「いつぞやぶりですね。アンドレイス」
部屋に入ってきたのは、バルディのようだ。
バルディは今までと変わらない、淡々としたトーンでアンドレイスに語りかけている。しかし、その声の中には、どこか諦めと疲労も混ざっているようだった。
これから一体、ここで何が行われるのか。
息を呑み、ペルセはその光景を見下ろし続けたーーー。




