ペルセの重き決断
「…ペルセ」
アモディエナは、真っ直ぐにペルセを見つめていた。マールでもハイーラでもなく、ただの子供であるペルセを。
その目つきは、変わらず険しい。その視線に、思わず背筋が伸びてしまう。
「…我々は、罪人を裁く側だ。君は、アンドレイスという男に、どうなって欲しい?」
「どう…って…?」
ーーー何を言い出すのか。
そんなこと、考えたこともなかった。
「アンドレイスのしたことは、到底許されることではない。君の故郷を、大切な悪魔を奪い、君をも殺そうとしたのだ。罰を与えないわけにも、いかないのでな」
「…罰…?」
アモディエナは言葉を続けたが、ペルセにはよく分からない。
だがーーーペルセのされてきたことを、アモディエナがちゃんと分かってくれてることだけは、理解できた。
「…アモディエナ様…。その問いは、些か酷なのでは…?」
横に影のように立っていたバルディが、口を挟んできた。少し眉を下げており、心配そうな表情だ。
「そんなことは、百も承知だ。…だが…それでも聞かねば…私の気も、収まらぬ」
しかし、アモディエナは、バルディの方へ視線を移さなかった。ずっと、表情を変えず、ペルセの方を見ている。
この問いからは、逃れられない。ペルセは直感的に、そう感じ取った。
「…悪いことをしたアンドレイスには、お仕置きをせねばならないのだ。ペルセは、アンドレイスに対して、どう思ってる?」
「どう…か…」
アモディエナの問いに対して、ペルセは考え込んだ。
アンドレイスに対して、どう思うかなど…。
あの、オーレンを、自分の場所を、理不尽に奪ってきた、あの男へ。
そんなの、当然ーーー
「…アイツを、許せないって、思ってます。何も、なしというのは、納得、できない、です…」
ペルセは必死に、言葉を紡いだ。その最中、頬に生暖かい感触を感じた。
ーーーいつの間にか、涙がこぼれ落ちていた。
「ちょっ、ペルセちゃん!?」
「ありゃ〜」
両隣に座っているハイーラとマールが、何だか慌てている。
ハイーラは慌てて胸元からハンカチを取り出し、ペルセの頬を拭ってきた。一方のマールは、ただただペルセの頭を優しく撫でている。
アモディエナは、そんな3人のバタバタを、正面から静かに見つめてくるだけだった。
「…アモディエナ様」
「うむ…」
アモディエナの横から、バルディが改まって声をかけてきた。アモディエナはそれに対し、何かを決めたかのように、静かに小さく頷いた。
「ペルセ」
「はい…?」
アモディエナは再び、ペルセに声をかける。その声には、先程のような圧は感じられず、どこか柔らかさが交じっていた。
ペルセは、ハイーラに顔を拭かれながらも、アモディエナの方へ視線を向ける。アモディエナの表情も、先程のように眉を寄せていなかった。
アモディエナはペルセに向けて、ゆっくりと頭を下げた。
「…よく、話してくれた。辛いことを思い出させて、済まなかった」
「へっ…?い、いえ…」
何が起きているのか、理解が追いつかなかった。
あのバルディの上司が、頭を下げているーーーあまりの事態に、ペルセも目の前の光景が飲み込めずにいた。ハイーラやマールも同様だったようで、呆然としている。
「あの者への仕置きは、望む通りに行うと約束しよう。希望するなら、同席も可とするが…」
「…同席?」
同席、とはどういうことか。なぜだか、そこが妙に引っかかる。
アンドレイスという男と、再び会おうと思えば会うこともできるのか。
ーーー何で自分を襲ってきたのか、安全な状況で聞いてみることもできるのか。
なぜそのように考えたのか、ペルセにも分からない。
無論、怖くないわけではない。しかしそれでも、本人から聞いてみたい、という気持ちも、捨てられなかった。
「…ペルセ、ちゃん…?同席なんて、やめたほうが…」
「ハイーラ〜」
ハイーラがオタオタしながらペルセに視線を向けるが、マールはそれに対し、小さく首を横に振る。
ハイーラはそれでも不安そうに、ペルセを見つめ続けた。
「…同席、したいのか?無理にとは言わないが」
「…………して、みたいです」
アモディエナからの確認に対し、ペルセは躊躇いつつ返答した。
ーーーこの判断が、正しいのかは分からない。
しかし、ペルセはそれでも選んだ。アンドレイスの話を、聞いてみることを。
アモディエナはペルセの言葉を受け、その答えを受け止めたかのように、無言で頷いた。




