アモディエナのもてなし
思わず、背筋が伸びる。穏やかではあるが、どこか威圧感のある声色だ。
「お招きいただき、ありがとうございます。…アモディエナ様」
バルディは軽く、頭を下げた。それと同時に、椅子が静かに回転し、そこに座っている悪魔の姿が見えた。
細い。あのアンドレイスとかいう男よりも、線が細い印象だ。しかし、その目つきや表情には、険しさが見える。そして、顔にはバルディと同じ、目元を覆うような枠がつけられている。
そして、バルディと同じような、『すーつ』も着ている。バルディ達のところだと、目元の枠とすーつは、必ず皆身につけるものなのだろうか。
「客人よ。わざわざサトゥニアまでご足労いただき、感謝する。私は、サトゥニア諜報部本部長を務める、アモディエナという者だ。分かりやすく言えば、そこのバルディの上司だな」
アモディエナはそう言いながら、ペルセ、マール、ハイーラの順に視線を送った。マールとハイーラはアモディエナを見て固まっているようだったが、ペルセだけは違った。
ーーーこの悪魔、どこかで見たことある気がする。
あり得ないはずなのに、そんな感覚が生まれた。ここに来たことも、ましてや過ごしたこともないのに。なぜか、その感覚がハッキリとあった。
「…ペルセ、という者は、そこの小さい、桃色の髪の少女で良いのだな?バルディよ」
「はい。それで間違いないです」
アモディエナは確認するかのように、バルディの方を見た。バルディはそれに対し、深々と頷いている。
やはり、バルディでも上司には勝てないのだろう。
というか、まだ自己紹介していないのに、なぜ名前が知られてるのか。なぜ、自分がペルセだと分かったのか。
「…なるほど。報告通りの、幼き子供だな。それにしても…」
アモディエナはそう言いながら、ペルセを見つめる。何だか、バルディと初めて会った時のような、観察してるような視線だ。
見るのは別にいいのだが、どういうつもりなのだろうか。
「…いや、止めておこう。まだ、その時ではない」
そう言いながら、アモディエナはゆっくりとペルセから視線を外し、俯いた。
ーーー一体、何だというのか。何か思ったのかもしれないが、ペルセには分からなかった。
「…それで、サトゥニア8世様はどちらに?」
「あいにく、今魔王様は別件で席を外されている。少し時間がかかりそうな案件でね」
ーーーせっかく来たというのに、自分達を呼び付けた本人はいないのか。何だか、不公平だ。
ハイーラ達も同じように考えてるだろう。そう思い、ハイーラ達の方へ視線を向けた。
しかし、2人共完全に雰囲気に飲まれて、未だに緊張している。あまり、役には立たなさそうだ。
「…少し、待ってもらうことになる。ゆっくりしてくれたまえ」
アモディエナはそう言いながら手を叩いた。すると、机を挟んでアモディエナと向かい合せになるように、アモディエナが座ってる椅子と同じような椅子が3つ、その場にいきなり現れた。
よくよく見てみると、机の上に、お菓子とジュースも置いてある。先ほどまで何も置いてなかったのに。
「し、シツレイシマス…」
しばらく固まっていたハイーラ達が、まるで年季の入った人形のような、カチカチの動きで椅子に座った。
ペルセも、それを不審そうに見ながら、あとに続いて椅子に腰かけた。
ーーー見た目によらず、ふかふかだ。座り心地が良い。
この椅子で、そのまま寝てしまうことができそうだ。
しかし、その眠気も、目の前に置かれてるお菓子の甘い匂いで吹き飛んでしまう。なんだか、普段ハイーラが用意してくれるお菓子とは違った、鼻に残るような匂いだ。
アスティアノでも、ハイーラが「高くて買えない」と言っていたお菓子に似ている。こんな、高そうなお菓子を食べて良いのかどうか、ペルセはそれだけを考えていた。
「こ、これって…!?」
「ハイブランドの、超高級お菓子だね〜…」
「ジュースは、普通のやつなのに…」
ハイーラとマールも、目の前の光景を見て冷や汗をかいている。やはり、高いお菓子のようだ。
ーーー何だか、ハイーラ達の慌てっぷりが、どこか面白く感じ始めていた。ペルセは、そんなハイーラ達を、ジュースを躊躇いなく飲みながら眺めていた。
「遠慮する必要はない。今回、私が呼びつけた側なのだ。サトゥニア8世様が戻られるまで、ゆっくりしていてくれたまえ」
「アモディエナ様…この状況でゆっくりと、というのは…さすがに、無理かと」
アモディエナの言葉に対し、隣にいるバルディが、若干呆れたように声をかける。
アモディエナは気遣うつもりで優しく言ったつもりのようだが、ハイーラ達は言葉を発することもできず、余計に固まってしまった。
実際、バルディでさえも、完全にリラックスはしていない。何なら、バルディは座ることさえせず、アモディエナの隣に姿勢よく立っているだけだ。
「むむ…そういうものか…。貴様以外のアスティアノの悪魔と接したことが少ないからか…勝手が、分からぬ」
バルディもアモディエナに声がけをしたようだが、アモディエナはいまいち分かっていないようだ。不思議そうに、眉をひそめている。
「…ところで、アモディエナ様。時間があるなら、例の案件、先に処理しませんか?」
バルディは軽くアモディエナの方に顔を寄せ、声を潜めるように語りかけた。




