サトゥニアへの転送
「それでは、これよりサトゥニアに向かいますが…何か、お聞きしたいことはございますか?」
バルディは淡々と、しかし明確にこちらを見ながら尋ねてきた。
聞きたいこと。知りたいことは山ほどある。しかし、どう聞けばいいか分からない。
ペルセが戸惑っていると、ハイーラが口を開いた。
「あの…どうやって行くんです?」
「私の体に触れててください。アモディエナ様が、私をサトゥニアに直接瞬間移動させますから」
「直接!?」
ハイーラが思わず、変な声をあげる。
ペルセには、バルディが何言ってるのか、全く分からなかった。
「…通常は、互いの合意の上で転送陣をつなぐものです。ただ、サトゥニアの場合はいろいろと制限があって、基本的に私達の方からは入れません」
バルディの説明に、今日何度目か分からなくなる、ハイーラ達の呆然顔が視界に入った。
だが、ペルセなりに何とか理解しようと頑張ってみた。
「…えーと…つまり、向こうが連れてってくれる、ってこと?」
「…まぁ…平たく言えばそうですね」
バルディはペルセの発言に、少し戸惑ったように答えた。ペルセは、何となく理解できたような気がして、何だか嬉しくなった。思わず、胸を張った。
「そういえば〜、何でサトゥニア8世様はペルセを直接呼び出したんですか〜?」
バルディの背中に手を触れながら、マールが尋ねた。
確かに、それは自分も気になる。さとぅにあ、というのが相当偉い悪魔だとはペルセにも分かっていた。
ーーーそんな悪魔が、わざわざ自分のような悪魔を呼ぶわけは、確かに気になる。
バルディは唸りながら考え込んでいた。そんな、言えないような理由なのか。
少しの沈黙が流れる。街の喧騒だけが、いやに大きく耳に入ってきていた。
「…私も、アモディエナ様経由でしか伝えてもらってない上、全部は聞かされていませんが…」
「サトゥニア8世様から直接は聞いてないってことですか?」
「えぇ…」
バルディは少し、気まずそうだ。視線が合わせてくれない。
あれだけ頭が良さそうなバルディにも、知らないことがあるのか。
ーーーそう思うと、何となくバルディに親近感がわいた。
少しして、バルディはゆっくりと口を開いた。
「…少なくとも、アモディエナ様の様子からすると、ペルセのことについて、何かご存知というか、心当たりがありそうでした」
「心当たり〜?」
「えぇ…アモディエナ様に先日の報告を見せた際に、データではなくペルセという名前に反応されてたので」
名前に反応した、というのか。自分というものを見分けるだけのものに、そんな大した意味などあるのだろうか。
しかし、自分にはさとぅにあという場所にに行った記憶がない。気付いたときには、もうダスノムにいた。
マールとハイーラが、こちらを見ている。しかし、いくら言われても、ペルセの方に心当たりはなかった。
「…こればっかりは、行ってみないと分かんないね〜…」
「それもそうね…」
しばしペルセへ視線を向けた後、マールとハイーラはそれぞれ軽くため息をついた。
一体何なのか。
わけが分からず、ペルセは首を傾げた。
「そろそろ行きますよ。私の身体に触れててください」
バルディはポケットから何か黒くゴツゴツした、小さい機械を取り出し、弄り始めた。
ペルセはバルディに手を触れながら、その様子を眺めていた。
やはり、男性の体だ。マールやハイーラと違い、ゴツゴツしている。
バルディが何かダイヤルのようなものを回すと、機械の方から、ザーッという音と共に、低い声が聞こえてきた。
「アモディエナ様。こちら、バルディです」
『…バルディか。準備できたのか?』
「はい。お願いします」
『了解した』
それだけのやり取りで、機械からの音声は途切れた。
バルディは機械をポケットにしまいながら、ペルセたちの方に視線を向けた。同時に、辺りが青白い何かに包まれた。
「…もう間もなく転送します。転送酔いもあるので、慣れない方は目を閉じておくことを推奨します」
バルディからそう言われたので、ペルセは素直に目を閉じた。体が外側から揺らされるような錯覚を覚える。
ーーーそして、しばらくして、一気に上へと引き上げられる感覚があった。




