初体験の、窮屈な格好
「…はい」
ハイーラは手を止め、玄関へ向かう。
隣にいるマールも、玄関の方へ目を向けている。
扉の先には、そこには2つの黒い布のようなものを持ったバルディが立っていた。
「お待たせしました。大人用と子供用のスーツ、各一着、お持ちしました」
もう、来たのか。そう思い、時計を見てみた。
まだ、アレから10分も経っていない。
それなのに、バルディに疲れた様子は全く無い。一体、この短時間で何をしていたのか。
ペルセがそんなことを考えてるうちに、ハイーラがその黒い布をペルセの前で広げていた。ーーーどうやら服のようだが、普段着てるものとは何か違う。
「準備が完了しましたら、お声がけください」
バルディはそう言うと、軽く頭を下げ、扉を閉めた。
準備と言われても、一体何をするのか。ペルセは、目の前でハイーラがしている作業を眺めるしかなかった。
「マール。あんたは自分でできるでしょ。この子のスーツのサイズ調節は私がやっとくから」
「分かってるよ〜。ちょっと部屋借りるね〜」
ハイーラは一切顔を向けることなく、マールに向けて言う。マールも、それを特に気にする様子もなく、部屋の奥へと消えた。
ハイーラは目の前に、バルディから受け取った黒い服を広げた。そして、先程何かを記録していた紙を見ながら、紫色の何かで服を覆っている。
「…それ、何してんの?」
「スーツの…あぁ、この服のサイズ調節。さっき、アナタの体の色んなとこを測らせてもらったから、それに合わせてる」
確かに、言われてみると、服の袖の長さやスカートの丈の長さなんかが変わってる気がする。
どうやって変わっているのか。それは、見てても分からなかった。
「…もしかして、マールさんも、それを自分でやる、ってこと?」
「そうよ。まぁ、アイツのことだから、私みたいにちゃんと測らないと思うけどね」
そういえば以前、マールと始めて会った時、マールはいきなり自分のサイズに妙に合ってる服を出してきた。もしかして、裏でこういう作業をしていたのか。しかし、マールはハイーラのような、事前に数字の記録などは確かにやってなかった。
「…よし、できた」
そうこうしてるうちに、ハイーラは紫色の膜を黒い服の周りから消した。服の見た目は先ほどと変わらないが、大きさが少し変わったような気がする。
「じゃあペルセ、悪いけどこれに着替えてちょうだい」
「え、私が着るの?ハイーラさんは?」
「私は自前のを着るわ」
ハイーラはそう言い残し、自分の寝室へと向かった。
こんな服、着たことがない。触れてみた感触も、今までの服とは違っている。しかし、何となくどこに腕を通せばよいのかは、アスティアノで過ごすうちに、大分分かるようになってきた。
「んしょ…」
元々着ていたワンピースを脱ぎ、黒い布に袖を通す。何だか、変な感触の服だ。しかし、ハイーラの調整の結果なのか、サイズは合っている。
「ペルセ〜、それ違うよ〜」
後ろからマールの間延びした声が聞こえてきた。振り返ってみると、いつもの肩を露出した服装ではなく、先程バルディが持ってきた黒い服に身を包んでいる。
ーーー何だか、バルディと似たような、少し近寄り難い、硬い雰囲気を感じた。
「こっちの白いのが先〜。ハイーラもちゃんと最後まで教えてあげてよね〜…」
マールはそう言うと、ペルセが間違えて着ていた黒い服を、慣れてるかのように脱がした。
順番があるのか。確かにマールを見ると、白い服を中に着ている。これが正しい順なのか。
ペルセはそんなことを考えながら、白い布に腕を通した。先程の黒い布とは、少し違う感触だ。
「ん〜…」
「上から羽織る前に、スカートも履いちゃおうか〜。シャツの裾が出てたら、だらしがないし〜」
マールはそう言うと、スカートを差し出してきた。
何だか、いつも着てるスカートと違う。全く、ヒラヒラしていなくて、動きにくそうだ。
ペルセは言われるままにスカートを履き、シャツを中に入れた。何だか、少し窮屈だ。そして、やっぱり動きにくい。
「あ、マールごめんね。着替え方教えてたの?」
「ちゃんと教えてから離席しなよ〜?」
ペルセが最後に残った黒い布を羽織ってると、マールと似たような雰囲気の格好になったハイーラが戻ってきた。
こんな動きにくい服を、なぜ2人共着たのだろうか。ただでさえ窮屈なのに、黒い布を羽織ると、その窮屈感が増した。
ペルセには、この格好をする必要性が、全く理解できなかった。
「準備、いいわね?バルディさん呼ぶわよ」
ハイーラはペルセの格好を一通り確認し、軽く埃を払うと、マールの方を向いた。
マールは、無言で頷いた。
「あ、バルディさん。準備できました」
「…思ったよりも、早かったですね」
ハイーラは扉を開け、バルディを呼んだ。
扉の先にいたバルディは、家の前の柱に寄りかかり、本を読んでいたようだった。
ペルセの位置からでは、何の本かは見えない。しかし、スゴく厚く、少し古そうな本なのは分かった。
バルディは本に何かを挟み、片手でゆっくりと閉じた。そして、バルディが本に視線を向けると、本は一瞬にしてその場から消えた。
何をしたのだろうか。それが分からずにいると、バルディは声をかけてきた。




