初めての身体測定
「…行っちゃった…」
ハイーラはドアを開けた姿勢のままで、呆然としている。言うだけ言って、バルディは本当にいなくなったようだ。
「…結局、どうするの〜?」
マールはハイーラの方を見つめている。
その声に意識が戻ったのようで、ハイーラはマールを一瞬見ると、軽く息を吐いた。
「…どうするって…スーツの調節の準備よ。アンタは自分でできるでしょうからいいけど、この子はね…」
ハイーラはそう言うと、扉を乱暴に閉め、部屋の奥へと消えていった。
マールはそんなハイーラの後ろ姿を眺めた後、何かを察したように動き始めた。
ーーー何も行動に関しては言葉を交わさなかったように見えたが、マールは分かったのだろうか。
取り残されたペルセは、2人を見て呆然とするしかできなかった。
すると、すぐにハイーラがペルセの元に戻ってきた。その手には、何か小さくて丸いものか握られている。
「…それ、何?」
「あんたの体のサイズ、測らせてもらうわ。くすぐったいかもしれないけど、ちょっと我慢して」
ハイーラはそう言うと、手に握られた物体から、数字や目盛りのついた厚紙のようなものを引っ張り出した。そしてそれを、ペルセの肩に当ててきた。
何だか、ヒンヤリとしている。今までにない感覚で、少し変な感じだ。
ハイーラは厚紙をペルセの肩の端から端まで伸ばした。そして、その厚紙をしかめっ面で眺めているようだった。
「…うん」
ハイーラは一人でうなずくと、手元にある紙に何かを書いている。一体何をしてるんだろうか。
「よし、次。ペルセちゃん、バンザイしてくれる?バンザーイ、って」
「へ?う、うん」
そう言われ、ペルセは言われるがままに両腕を上に上げた。
ハイーラはそんなペルセの胸に、先程の目盛り付きの厚紙を当て、グルリと体を一周させてきた。
「んんっ…」
「ゴメンね。少し我慢して」
何だかくすぐったい。慣れない感覚に、ペルセは、思わず、身をよじった。
しかし、ハイーラにそんなことを言われては、耐えるしかなかった。
「…よし、次ね。腕、下ろしていいわよ」
ハイーラは再度紙に数字を記録すると、続けてペルセの腰に厚紙を当て、同様に一周させた。
自分はさっきから何をされているのか。ハイーラは何だか手慣れてるような気がするが。
ペルセはホッとしたように腕を下ろしながら、そんなことを考えていた。
「……………やっぱり、まだまだ細いわね」
ハイーラは難しそうな顔をしながら、ぽつりと呟いた。
よく分からないが、自分は痩せてる方なのか。最近は、割と食べてる方だと思うが。ペルセは、そんなどうでもいいことを考えていた。
「…まだ、終わんないの?」
「あと一カ所よ。もうちょっとだけ、我慢して」
いつまでこのくすぐったい作業が続くのか、少し不安になって、ペルセは口を開いた。ハイーラはそんなペルセに視線を向けず、また数字を記録していた。
「…次でラストよ。ちょっと失礼するわ」
そう言うと、ハイーラはペルセのお尻に、厚紙を当てて一周させてきた。
何だか、違和感がある。あまり、他人に触れられたことがないところだからだろうか。落ち着かない感覚に、少し身体に力が入った。
「…はぁ…羨ましいを通り越して、心配になる細さね」
ハイーラは呆れた様子で、紙に数字を書いている。
その数字が大きいのか小さいのかは、ペルセから見てよく分からなかったが、これだけ言うのなら細いのだろう。どうリアクションを取ればいいのかも知らないが。
「あれ〜?もう終わったの〜?」
「そっちこそ、もう片付けは終わったの?」
「さすがに急ぎで済ませたよ〜。事が事だもん〜」
「…ありがと。…ほんっと、お見通しよねアンタには」
「それはお互いじゃない〜?」
そうこうしてるうちに、マールが戻ってきた。ハイーラは「片付けて」なんて言ってなかったはずだが…。マールが何をもってその判断をしたのか、ペルセには全く理解できなかった。
ハイーラは軽く息を吐くと、先程から記録に使っていた紙を、マールに見せた。マールは、差し出されたそれを眺めた。
「なにこれ〜?」
「この子のサイズ感。とりあえずこれだけあればスーツの調節できるわよ」
そんな数字を見たところで、どうこうなるものなのか。というか、あれは『すーつ』の調節のための作業だったのか。
マールはしばらく見つめた後に、再びハイーラに視線を向けた。
「まぁ〜…こんな感じにはなるよね〜。何となく、予想はしてた〜」
「…そうだろうとは思ったわよ」
ハイーラは紙を机のうえに置きながら、呆れたような声を出した。マールはそれを見て、楽しそうにクスクス笑っている。
ーーー長い付き合いがある相手だと、何か言わずとも、相手のことや考えが分かるのか。自分は、オーレンの考えてることが、本人から言われないと分からなかったのに。
何だか、少しだけ、羨ましかった。
そう思いながら2人を見つめていると、来客を知らせる鈴の音が鳴り響いた。




