サトゥニア直轄部隊長の制圧
本当に、短絡的な思考だ。
自分の思いに賛同しなければ、自身の思うダスノムの関係者と同等に、ゴミのように扱う。
「この至近距離なら、いくらテメェでも避けようがねぇよなぁ!!」
腕には先程と同等、いや、下手をするとそれ以上の魔力がこもっている。
なるほど。
至近距離では、爆発を伴う魔力弾は放てないから、超強化した拳での殴打。密着状態での攻撃としては、合理的だ。
バルディは冷静に、そのようなことを考えていた。
その間、アンドレイスの腕には魔力が注入され続け、放たれる一撃の破壊力が上昇していく。その腕には、赤く燃えるような魔力が纏われていた。
「消えろや、ゴミがぁ!!」
アンドレイスは怒りで表情を歪め、思い切り拳を振りかぶる。
普通なら、回避に専念するところだろう。しかし、バルディは違った。
「…やれやれ…一撃だけなら、正当防衛および対象を無力化するうえでの正当な業務の一環として、判断してくれますかね…」
アンドレイスの動きを見たバルディは、再び腕に自身の魔力を流し込んだ。バルディの腕は、青白く揺れる、穏やかな魔力を纏っていた。
アンドレイスの一撃が、バルディの顔面めがけて放たれる。掴まれているため、逃げ場はなかった。
しかし、その一撃がバルディに届く寸前、アンドレイスの顎に鈍い衝撃が走った。
「ぐぎびぃっ…!?」
バルディは、アンドレイスの顎に、アッパーを食らわせていた。それに伴い、アンドレイスの一撃は、バルディの顔から逸れてしまった。
いや、バルディによって、軌道を逸らされた。
アンドレイスの手は、バルディの胸から離れ、体は宙に舞う。腕に纏われてた燃えるような魔力も、霧散してしまった。
顔は、食らった一撃で顎の方から押し潰されたような、ひどい有様となっていた。
「…戦闘は得意ではなかったのですが…意外と、いけるものですね」
バルディは振り上げた腕を下ろし、再びポケットから取り出したハンカチで、手を拭いた。
そんなことをしていると、アンドレイスが地面に叩きつけられる音がした。目視で確認してみたが、もう、その体に意識はないようだ。
「…さて…と…」
倒れたアンドレイスから目を離さないようにしつつ、バルディはポケットから小型無線機を取り出した。無機質なダイヤルを回すと、ノイズ音と共に、無線機から低い声が聞こえてくる。
『…遅かったな。…バルディよ』
「イレギュラーな事象が起こりまして、想定より報告が遅れました。申し訳ございません」
相手は、バルディ自身の上司でもある、サトゥニアの幹部だ。この相手と話すときは、毎回自然と背筋が伸びる。
『それでは、報告を聞こう。いつものように、魔力でのデータを…』
「それなのですが、今回は直接、私がそちらにお伺いしても?」
『…それは、構わぬが…何か、理由が?』
「それも含めて、まとめてお話させていただきます」
しばしの、沈黙。風の音と、無線機から聞こえるノイズ音だけが、耳に入った。
少しして、相手が口を開く。
『……分かった。貴様のことだ、何か重大な事情があったのだろう。待っているぞ』
「ありがとうございます。では、後ほど」
バルディはそう言うと、無線機を切り、ポケットに戻した。
ーーーサトゥニアへの報告事項が、多々ある。早急に向かわなければならない。
バルディは気絶したアンドレイスを抱え、その場から霞のように姿を消した。




