思考の暴走と決裂
潰した魔力弾の欠片が、周囲に飛び散った。やはり、相当な密度だったようだ。
「な…っ…!?」
あまりのことに、男が呆然としている。バルディはそんなことも気にせず、ハンカチを取り出し、汚れた手を拭いていた。
「…あなたが、アンドレイスですね?」
バルディは視線を向けずに、しかし確信を持って、静かに問うた。
男はしばらく凍ったように止まっていたが、イライラが再燃したようで、不機嫌そうな表情になった。
「あぁそうだよ!何だってんだテメェは!」
「失礼。私、魔力災害調査官の、バルディと申します。重要参考人として、アナタのことを、探していたんですが…そちらから来てくれて、好都合でした」
不機嫌を隠そうともしないアンドレイスを相手に、バルディはハンカチをポケットにしまい、アンドレイスに向き直った。
アンドレイスは、不思議そうにしていた。
「魔力災害だぁ?んなもん知らねぇなぁ」
「先日、あの家の近辺で起きた、アスティアノの魔力を上書きされかけた、あの魔力災害ですよ。あなたがあの場にいたことは、すでに調査済みです」
すっとぼけられたところで、こちらには調査結果もある。言い逃れは通じさせない。
バルディは、ハイーラの住まう家の方を、分かりやすく手で示した。それに対し、アンドレイスは余計にイラついたようだ。
「…あのゴミがいる空間が、何だと言うのだ」
「そのゴミというのは…もしや、ダスノム出身の、桃色の髪の少女のことですか?」
この手の相手に、長話は不要だ。早々に、本題に入ることにした。
ダスノムという言葉、ペルセの特徴的な見た目の話に触れた途端、アンドレイスの感情が一気に爆発した。
「あぁそうだ!!ダスノムにあるモノなんざ、価値のねぇゴミだ!!あのガキは、存在するだけで、このアスティアノを穢すんだよ!!」
ーーーハイーラ達の言っていたことが、最悪の形で確認できた。バルディは咄嗟に、先程使っていたメモ帳を取り出し、淡々と記録を取っていく。
「存在するだけで、ですか?」
「あぁ…。ダスノムって存在自体が、この魔界を穢してる。だから、消すんだよ。ダスノムも、そこに関係する悪魔も、跡形もなくな!!そうすりゃ、完璧な魔界になる!!」
ーーー理解に苦しむ。ダスノムは、あくまで『ゴミの最終処分場』であって、『不要な場所』ではない。
ダスノムに悪魔が住み着いてしまったことは想定外だが、そこにいるだけでここまで否定されてしまうとは…。
「テメェも見たとこ、いいとこの悪魔だろ?ダスノム消そうぜ…。んで、一層綺麗な魔界を作ろうぜ。なぁ?」
バルディが何も言わないことをいいことに、勝手な勧誘までしてきた。
これは、完全に拘留案件だ。
バルディは頭の中で、アンドレイスを捕縛対象と認識した。
「…私は、そういう気はありません。むしろ、幼き子供に、そのような憎悪を向ける、アナタが異常ですよ」
「あ…?」
アンドレイスは、断られることを想定していなかったようで、間抜けな声を出していた。
むしろ、なぜいけると思ったのか。バルディにとっては、不思議なことだった。
一瞬の間を置いて、アンドレイスの顔が、一気に赤く染まっていった。
「テメェ…!!ゴミを庇うってのか!?」
「庇うつもりはありません。ただ、出自で区別することに抵抗があるだけです」
「ダスノムに堕ちたヤツは全て無価値のゴミだ!!それが魔界の真実なんだよ!!」
バルディの表情は冷静なまま変わらない。それも気に食わないのか、アンドレイスはバルディの胸倉を掴んできた。
「…そうか…じゃあ、テメェもゴミだ。テメェも消してやる…」
アンドレイスはそう言うと、再び腕に魔力を集中させた。




