上位と上位の邂逅
「突然の訪問にもかかわらず、ご対応いただきありがとうございました」
バルディはハイーラの家の玄関口に立っていた。そこで、深々と頭を下げる。
「いやいやいや!むしろ、一度追い返してしまって、こちらこそスミマセンでした!」
「そう言っていただけて何よりです」
ハイーラは慌てたように頭を下げてきた。見てくれはなかなか若いのに、真面目な娘だ。
「…また何かありましたら、アナタにご連絡させていただきます」
「は、はい…」
バルディとしては、穏やかに笑みを向けて言ったつもりだった。しかし、ハイーラはそれを見て少し怯えていた。
やはり、サトゥニア直轄、と言ってしまったのは失敗だったか。
「では、失礼しました」
バルディはそう言うと、ゆっくり扉を閉める。ドアが枠にぴったりはまった音が、妙に心地よく耳に残った。
ーーー大分、報告事項がありそうだ。
ゆっくりと歩きながら、手元のメモ帳を確認する。
あのペルセという娘の異常な魔力、ダスノムの異常との関連、そして…ダスノムへの、異常な認識。
ここまでの収穫が出るとは、正直思っていなかった。自分も、まだまだ未熟なものだ。
「さて、一度持ち帰ると…む?」
サトゥニアの悪魔達に連絡を取ろうと、ポケットに入れている小型通信機を取り出そうとしたその瞬間、いやな気配を感じた。
敵意と憎悪。一言で言い表すなら、それだった。
空気がピリつく。明らかに、何者かがこちらに近づいてくる。
「…何でしょうかね」
本来ならば、こんなことは業務外だ。しかし、何だか嫌な胸騒ぎがする。バルディは、ポケットから何も取り出さず、周囲に視線を走らせた。
すると、バルディの左前方数十メートルの地点に、赤い転送陣が表れる。あの転送陣は、相互の合意が不要な、一方的な転送陣だ。
何者が、この場にやって来る。そう確信し、バルディはそこを見つめた。
ーーー転送陣が赤く光ると共に、中から金髪の、スーツを着崩したような格好をした男が現れた。
「…ようやく、治った…三度目はねぇぞ、あのゴミが…!!」
男は、もはや恨みを隠そうともせず、魔力もむき出しなままだ。こんな公共の場で、魔力をむき出しにするなど、愚者のすることなのだが…。
しかし、その魔力の質には、引っかかるものがあった。なぜなら、例の災害現場に残されていた魔力の残滓と、ほぼ同じものだったからだ。
「消してやる…!!今度こそ、完全に…!!」
男はその場から動くことなく、自身の魔力を掌に集中させて、魔力弾を作り出している。その弾は、かなりの魔力密度だった。
その狙いはーーーバルディの背後にある、ハイーラ達の家のようだ。
ーーーまずい。あんなものを放たれては、家が消し飛ぶ程度の生易しい被害では済まない。
何より、あの者達は、災害の重要参考人だ。ここで消されてしまっては、バルディとしても非常に好ましくない。
「…今日は残業ですかね」
バルディはため息をつき、男の射線上に割り込んだ。
しかし、もう遅かった。男は、バルディの存在に気付かず、魔力弾を放ってきた。
魔力弾は、空を裂くような勢いで、バルディのもとに迫ってくる。何もせずにただ受け止めては、さすがに無傷では済まない。
「フン…」
しかし、バルディは余裕の表情だった。
自身の腕に魔力を込め、飛んできた魔力弾を何なく受け止めてみせた。
「ん!?」
渾身の魔力弾を簡単に受け止められたことに気付き、男の表情が怒りから困惑へと変化する。まぁ、自分の投げつけたものがいきなり止められたのだ。無理もない。
「…やはり、この男が…」
直接魔力に触れて、より確信した。この男こそが、あの災害現場にいたと推測される、『アンドレイス』だ…と。
同時に、これほど一方的な恨みで暴走する男を、
ーーー野放しには、しておけない。
「…非常に、不愉快ですね」
バルディはそう静かに呟いた。そして、腕に力を込めた。
すると、受け止めていた魔力弾が、あっさりと握り潰され、粉々に砕け散った。




