獣人の魔力特性
次の日、エストラでは実習授業が行われていた。
ペルセはその魔力の質ゆえ、周囲の魔力施設ごと破壊しかねないため、実習に参加することは許可されず、見学となっていたため、ミノト達を含めたクラスメイトの様子を眺めていた。
仕方のないこととはいえ、一緒に実習できないのは少し寂しい。だが、そんなペルセを気遣ってか、ミノトを筆頭に、皆が積極的に声をかけてくれるので、仲間はずれにされてる感覚は全くなかった。
今、ペルセの目の前で、ミノト達が魔力操作の実習を行っている。今日の実習内容は、魔力の制御方法の実習の一環として、遠くに置かれた的の特定座標を撃ち抜く、というものだ。普段大雑把で豪快な魔力の扱い方を好むミノトにとっては、苦手な分野だ。
「むぅ〜…こんな細かくできないよぅ…!」
「落ち着いください。冷静にならねば、暴発しますよ」
「は、はいっ…!」
不満を漏らすミノトに対し、バルディが冷静に忠告する。そんなバルディの顔を間近で見て、ミノトはほんのりと顔を赤らめる。
ーーーやっぱり、よく分からない。そんなに照れ臭くなるようなことだろうか。
「ダリスはその調子です。ただ、肩に力が入り過ぎです。もう少し脱力しましょう」
「だ、脱力…?」
「これは練習なので、いくら外しても構いません。脱力しなければ、視野が狭くなり、ひいては精度の低下にもつながります」
ダリスへの声がけも、非常に淡々としている。バルディはダリスにお手本を見せるかのように、自分の魔力を極限まで威力を絞った上で指先に集中させた。
「す、すげぇ…」
「ここまでの精度を要求するつもりはありませんが、威力を絞って、かつピンポイントで撃ち抜くためには、力んでいてはできませんよ」
バルディはそれだけ言うと、魔力を体内への引っ込めた。
何だか、アモディエナからの指導を思い出す。バルディはアモディエナの配下なので、似ていても不思議ではない。だが、全く同じことを、アモディエナはかつてペルセ自身にも言っていた。
「あと、そもそも…見ている限り、ダリスは魔力がミノト達人間や私達悪魔とはかなり違う、荒ぶった魔力ですね」
「え?えぇ、まぁ…獣人ですから」
「人間に最適化された制御方法、ある程度は通用するでしょうが…少し、個別にカスタマイズしてみてもいいかもですね」
バルディはそう言うと、ダリスから離れた。
確かに、改めて観察してみても、ミノトの放つ魔力と、ダリスの放つ魔力は全然違う。ダリスの魔力の方が、もっと暴れん坊な印象を受ける。
すると、一人の生徒がバルディに声をかけた。
「そういえばバルディ先生は、どのくらいのとこまで精密に狙えるんです?」
「…その気になれば、あそこにいるペルセ様の眉間を撃ち抜くこともできますよ」
そう言うと、バルディはこちらへ視線を向ける。いきなりそんなことを言われて、ペルセは咄嗟に、両手で自分の額を庇った。
イアノなら表情から冗談だと分かるのだが、バルディは表情一つ変えることなく言ってくるので、冗談だと分かっていても笑えない。
だが、周りからはドッと笑いが起きた。
「ペルセ〜、狙われてんぞ〜」
「逃げなきゃじゃないか?」
「あそこから眉間って、むちゃくちゃ細かくない!?」
庇ってくれる声は、皆無だった。ペルセは不満げに、頬を膨らませた。
だが、少し騒がしくなったところで、バルディが大きく手を叩いた。
「できるというだけで、やる気はありません。聞かれたから、分かりやすい例えをしたまでですよ」
「バルディさん、ホントに心臓に悪いからやめて…」
「すみません」
苦情を入れても、バルディは冷静だった。イアノのように、クスクス笑いながら対応されてもどうかと思うが、バルディのように真面目な対応をされても困ってしまう。
「…さ、実習を続けましょうか」
だが、バルディは特に気にしていないらしく、実習の指導へと戻っていった。




