素朴な疑問
「そういえば、人間界にいる人外って、どういう種族がいるんですか?」
とある日の夜中。ペルセはラウラの家で夕食を食べながら、前から思っていたことを口にした。その言葉に、ラウラは一瞬止まった。
当然魔界には悪魔以外いない。だが、人間界にはダリスやエルフィー以外にも人外がちらほらいるらしい。だが、どういう種族がいるのか等はよく知らなかった。
「…いきなりどうしたんです?」
「前から思ってたんです。人間界って、色々な種族がいるなぁ、って」
戸惑うラウラに、ペルセは野菜炒めを頬張りながら答える。ラウラは困ったように、少し唸っていた。
「人外と言っても幅広いです。いくつか種族がありますから」
「そうなんですか?」
「あなたの知る範囲で言うと、エルフや獣人でしょうか」
エルフと獣人。そう言われて真っ先に頭に出てくるのは、エルフィーとダリスだった。二人とも、自分をエストラの生徒として扱ってくれる、とても優しい人物だ。
「エルフとか獣人って、どういう種族なんでしょうか…?」
「…せっかくですし、少し歴史のお勉強といきましょうか」
ラウラはそう言うと、手元に本を転送してきた。少しばかり、厚そうな本だ。その本の題名が、「よく分かる歴史」というものであることから、教科書か何かだろうか。
「以前あなたが対峙したドゥローラという国で、人間至上主義に基づいた政策が行われてたこと、知ってますか?」
「え?…うん、聞いたことあります」
レボルタがかつて、ドゥローラという国でやっていた政策。人間であることを至上とし、それ以外の種族は徹底的に冷遇する。クロニオス達からは、そのように聞かされていた。
それが何だというのだろうか。不思議に思っていると、ラウラは本を見せてきた。
そこには、数百年も昔には、人間ではないというだけで奴隷になることを強いられる、という出来事が一般的だった、ということが記されていた。
「…こんな歴史が…」
「今こんなことをすれば、あちこちから非難されて、ドゥローラのような末路を辿りますが、当時では珍しくありませんでしたよ。私がドゥローラにいた頃も、人間ではない様々な種族が売買されてましたから」
「…え、売買!?」
あまりに自然に言われたものだから、一瞬処理が追いつかなかった。
売買。ものではなく、人間ではないとはいえ、ちゃんと意志を持って生きている一人の人物が、売られていて、買われていたというのか。
「売買のメインは、獣人でしたけどね。今エスカン国内にいる獣人も、ルーツを辿れば売却された奴隷に行き着くと言われています」
「奴隷、って…」
「売買される目的なんて、大概は労働力ですよ。ご存じの通り、獣人は体格が良く、力も強いですから」
ーーーダリスも、奴隷の子供だというのか。もちろんそんなことで偏見を持ったりすることはないが、時代が違えば、ダリスは獣人というだけで酷い扱いを受けてたかもしれない、ということになる。
「さて、こんなところでしょうかね。私が知るのは、歴史上の一般的な流れのみです」
「こんな歴史が…」
「もっと詳しく聞きたいなら、エルフィー先生と話す機会を設けますが」
「え?なんでエルフィー先生に?当事者だから?」
ペルセは首を傾げる。エルフィーは確かに人間以外の種族で、しかも長命種のエルフだ。数百年前の冷遇されていた時代を知っていても、何らおかしくはない。
だが、ラウラは静かに首を振った。
「それもありますが…。エルフィー先生は、魔力薬剤の開発を主体とした薬師でしたからね。様々な種族がお得意さんだったりしますから、その手のネタは豊富に持ってるんですよ」
「へ〜」
エルフィーにそんな過去があったなんて、知らなかった。ペルセは素直に感心してしまった。
ラウラはクスリと笑うと、さらに言葉を紡いだ。
「私の話したことは、エストラでも小中学生で習う一般教養の内容ですよ。獣人やエルフは、魔力の質も違いますからね。その詳しい話は、私にもできません」
「あ、そういえばミノトも言ってました」
ラウラに言われ、ミノトが以前言ってたことを思い出す。
何でも、人間であるミノトと、狼の獣人であるダリスとでは、魔力の質が全く違うらしい。ミノトの説明では、それ以上のことはよく分からなかったが。
「まぁ、また聞きたいならいつでもお話しますよ。とりあえずご飯を食べましょう。明日も学校ですからね」
「あ、はーい」
ラウラはそれだけ言うと、本をしまいに席を立った。ペルセもその言葉に対し、素直に従うことにした。
平和な人間界の夜は、今日も更けてゆく。




