続いていく日常
学会が終わった週の週末。
今日もエストラではいつもの日常が繰り広げられている。
学校そのものは休みであるため、いつもよりは少ないにしても、研究室での業務に追われっぱなしの時間を過ごしていた。
エルフィーの方で違いがあるとするなら、あの学会以降、噂が広がってしまったエルフェンのことに関する話が、やけに知り合いの研究者から振られるようになってしまったことくらいだろう。
「全く…何でウチに連絡してくるんやろ」
「同じ業界に、アクセスしやすい窓口があるからでは?」
たまたま食堂で一緒になったラウラと共に相席し、昼食をとる。今日の定食のおかずは、焼き魚と味噌汁だ。
味噌の味が染み込んだ豆腐を頬張りながら、エルフィーは午後の予定を確認する。出張等は特になく、昼食を済ませたら、また研究室に戻って学生の指導だ。
「やれやれ…また研究尽くしの日常ばい」
「堅苦しい場に居続けるよりはマシですよ」
「まぁ、そらそうやね」
研究室での仕事は、控えめに言ってもかなり疲れる部類のものだ。だが、学会発表は、フォーマルなスーツに身を包んだうえで発表を行う、もっとしんどい仕事だ。
二人にとっても、必要だとは分かっていても気が進まない業務だった。
「ばってん…ホント、この職場はよかとこよね。研究もできる、子供も見れる、色んな種族の奴らに出会える」
「それはそうですね。数百年前、設立当初から変わってない、エストラの…エスカンという国の信念でもありますからね」
エルフィーとラウラはそんなことを言いながら、焼き魚を口へと運ぶ。いい具合に焼かれており、味付けについても塩味がよく効いていて美味しい。
「数百年ぶりに、魔界との交流まで正式に再開して…。留学生のペルセさんだけではなく、イアノさんやバルディさんという、仕事人としての交流まで…」
「大きな事業になったもんやね。上手くいけば、ますます多彩な種族が出入りできるやろね」
今のエストラは、魔界との交流の窓口だ。ソロモニアの事件で一度は頓挫しかかったが、前よりもパワーアップした交流事業が行われている。留学生のペルセも、小学部で楽しそうに過ごせていると、ラウラから聞いていた。
イアノやバルディについても、生徒達の間の評判が良い。
ただし、その見た目に惚れ込んでる異性の生徒達もいて、特にバルディはそういうことに無自覚なようなので、少し注意が必要そうではあるが。
すると、何かラウラが思い出したような表情で口を開いた。
「そういえば、エルフェンさんを改めて勧誘したんですよね?どうでしたか?」
「前よりはマシ。やけどまぁ、結局は本人次第やけんね。あの査読眼で学生のレポート評価とかさせたら、泣く奴も出るやろけど、絶対ためになると思うんやけどね」
エルフィーはそう言いながら、ケラケラ笑った。
無論、学生が相手ならば、本気の査読をさせるわけではない。だがそれでも、現役の研究者さえ唸らせるエルフェンの査読の能力は、どうしても捨て難い。
それゆえ、前から何度か勧誘はしていたのだが、強制する気は全くないので、強くは言っていなかった。
「…ま、急ぎではないしな。エルフの寿命は、長かけんね」
「えぇ。ゆっくり、決めてくれれば良いんです」
二人とも定食を食べ終えて、席を立ち上がる。そして、空になったトレーを返却口へ戻し、食堂を後にした。
「では、エルフィー先生。お疲れ様でした」
「おう。お疲れ」
食堂から出た二人は、そのまま別れ、各々の目的地へと向かう。エルフィーは研究室へ、ラウラは職員室へと。
ーーー今日も、エストラ講師達の日常は、動き続けているのだった。




