姉妹の帰路
学会からの帰り道。ラウラとも別れたエルフの姉妹は、傾きかけた夕日に照らされた道を、二人で並んで歩いていた。
「…なぁ、エルフェン」
「何?」
何の気なしに、エルフィーが口を開く。
今日のエルフェンの態度については、色々と言いたいことはある。研究者への質問は、むしろ自身の専門外の分野ゆえに、いくらか控えめにはしてくれていた。
ーーーだがそれでも、査読者としての眼を存分に発揮し、容赦なく突いていた。
今回の研究者達は好意的に受け止めてくれたが、エルフェンのような見た目で、しかも畑違いの研究者から無遠慮に突かれるのは、いい気分ではないだろう。
しかし、査読者としてのスタンスは本物だ。姉である自分にすら影響を与えてしまうほどのその査問眼を腐らすのは、やはりもったいなさすぎる。
「…お前がかなり気を遣ったんは分かっとるけど、専門外のヤツからあのツッコミをいきなりされると…」
「お姉ちゃん、甘いよ」
少しばかり苦言を呈そうかと思ったのだが、エルフェンは止めた。むしろ、エルフェンは反論があるようで、真面目な顔でこちらを見つめていた。
「私にとっては確かに専門外だよ。…でも、だからこそ…素人から出てくるくらいの質問に答えられるようにしないと…本物のプロの質問に、対応できないよ」
ーーー正論だ。間違いない。エルフィーは言い返せなかった。
確かにエルフィーも、魔力薬剤に関する研究発表であれば、今日のエルフェン以上に、疑問点を容赦なく突くであろう。素人質問にすら耐えれないようでは、研究データの分析や、資料の理解が甘いと言わざるを得ないのかもしれない。
「…やっぱ、アンタはスゴか。ウチが研究者としてやっていけた理由の一つは、あんたばい」
「お姉ちゃんも、十分スゴいと思うよ?」
そう言われ、エルフィーは歩みを止めた。
自分なんかの何がスゴいというのか。疑問に思っていると、エルフェンは気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「知ってるんだよ、私。お姉ちゃんが、エストラに行き着く前に、長年流浪の旅薬師やってたこと。独学で現場の運用をずっとやり続けて、その経験則やデータから、必要な薬を作り続けて…。暗中模索の中で、ずっと答えを求めて探り続けられる人は、多くはないよ」
ーーーバレていたのか。いや別に隠してはいなかったが。
この口ぶりだと、それで稼いだお金をエルフェンのために使っていたこともバレているだろう。
「…ありがとうな、エルフェン」
「ん…」
エルフィーは妹の小さな頭に、そっと手を添える。
エルフェンは大事な妹だ。それは間違いない。だが同時に、最も信頼できる研究者の一人でもある。
だからこそ、別の願望も芽生えてきてしまった。
「やっぱエルフェン、エストラに来ない?」
「…それ、前断ったでしょ?」
エルフェンの査読眼を、研究者に味合わせるのももちろん良い。だが、どうせだったら早いうちに晒させるのも良いだろう。それこそ、高等部以上ならば、やる価値がある。
だが、エルフェンは渋い顔だ。研究者としての仕事がハードであり、講師職としての業務を差し込む余裕などないのだろう。
しかし、今は少し状況が違っている。エルフェンは、それを知らないはずだ。せっかくだし、教えてあげるとしよう。
「悪魔の臨時講師が、二学期の間だけ交流として来てもらっとる。そういう期間限定の講師とかやったらどうよ?」
「…そんなのがあるの?」
思ったよりも、エルフェンの興味を引けたようだ。エルフィーはそのままさらに言葉を続けた。
「強制はせんけど、そういう枠も作れるとやなかかな?ちと確認してみんと分からんけども」
「…考えとく」
エルフェンはそれだけ言うと、再び歩き始めた。
ーーー姉妹の帰路は、平穏そのもの。
邪魔する者は、いなかった。




