エルフェンのお迎えと一騒動
そこからは、怒涛の質問ラッシュだった。
エルフェンは何者なのか。
どこの研究所所属なのか。
専門分野は何で、どんなことを研究しているのか。
研究者姉妹で話をすることがあるのか。
家でも、プライベートでもあんな感じなのか。
あれほどの査問眼を、どうやって身につけたのか。
嵐のように質問をされ続ける。研究者達のあまりの勢いに、エルフィーでさえ押されてしまうほどだった。
「…エルフェンさん、この界隈でも名前が知られてしまいましたね」
「ホーム外のとこなのに、研究者を強く揺さぶることをしちゃったら、そりゃね…」
ラウラとヴァーレアは、しみじみと言っている。どうやら、手を差し伸べてくれるつもりはないらしい。とはいえ、姉である自分にしか答えられない質問もあるので、助けを求めたところで役立つかは微妙だが。
必死に質問を捌いていると、控室の入り口に小さな人の気配を感じた。
ーーーまずい。今一番来てほしいが、一番来てほしくない者の気配だ。
「…お姉ちゃん?」
そこにいたのは、今話題の渦中にいるエルフェンだった。しかも、いつの間にかスーツから、普段着である紺色のセーラー服に着替えており、より子供っぽさに拍車がかかっている。
エルフェンのボソボソした声に、研究者達が気付く。エルフィーの耳でもギリギリ聞こえるかどうかくらいの、非常に小さい声だったのに、聞き逃してはくれなかったらしい。
研究者達が、一斉にエルフェンの方へと駆け寄っていった。
「ちょいちょいちょい!!待て待て待て!?」
エルフィーは慌てて追いかけた。その背後で、ヴァーレアがのんきに「お姉ちゃん頑張って〜」とか無責任なことを言っている。
ヴァーレアには後で文句を言うとして、今はエルフェンの手助けをしなければならない。実際、いきなり研究者に囲まれ、エルフィーよりもさらに小柄なエルフェンは困惑している。
「エルフェンさん!今回の質問、本当にありがとうございます!まるで殴られたような衝撃でした!!」
「あのような慧眼をお持ちの研究者を、初めて見ました…!」
「是非とも私達と一緒に研究を…!」
研究者達は各々、エルフェンにアピールをしている。初対面の研究者達ばかりなので、それ自体はいいのだが、アピールされてる相手が妹であることが複雑だった。
「…お姉ちゃん」
「何ね?」
「どうすればいい…?」
「ウチが知りたか!!」
エルフェンはエルフィーを見て、いかにも困ったと言わんばかりの様子で尋ねてくる。だが、困ってるのは自分も同じだった。
だが、そんな困惑を、研究者達は察してはくれない。次々とエルフェンへ質問を投げかけていた。
しかし、ある質問で、エルフェンのスイッチが入ることになる。
「エルフェン先生は報告書書かれる時に、どのようなことを意識されますか!?」
この質問を聞いた瞬間、困惑していたそれまでの表情が一変し、真面目な表情へと変わった。
「…意識してるとしたら…その報告書を見て、他人が再現できるかどうか、とか?あと、自分の書いた考察に、1ミリたりとも相手の推測がいらないくらい、論理をつなげて書くこと…かな…」
相変わらず、聞き取りにくい小さい声。だが、それはエルフィーも散々エルフェンから言われ続けていたことでもあった。
「そうやね。エルフェン、そこは譲らんもんなぁ。ウチも何度それでお前に突き返されたか分からんばい」
「相手に推測させるってことは、相手に少しでも頼ることになるから。相手にやってもらうのは、推測による穴埋めじゃなくてファクトチェックだけでいいんだから」
「…お前の書く文章、異様に厳格やもんなぁ。その辺の余地が全くなか」
「厳格、なのかな…?相手に推測させる余地を潰してるだけなんだけど」
エルフィーが何気なく話を振り、エルフェンが答える。姉妹からしたら、家の中で過去の話を思い返しているだけだったのだが、周りの研究者は歓声をあげていた。
ーーーこれで、成果は得られただろう。ここが潮時だ。
「とりあえずそろそろ帰らせんかい。あんたらも、いつまでも長居しとったら、施設側の人に怒られるばい」
「そんなことを言わずに、もう少し…!」
「ウチらは帰るばい」
そもそもエルフェンがここに来たのは、恐らく戻ってこない自分達を探しに来たのだろう。わざわざ着替えた上でここまで来たということは、それなりに待たせてしまったのかもしれない。
不満がる研究者達を置いて、エルフィーはラウラとエルフェンを連れて、控室を立ち去った。




