ラウラvsエルフェン
手を上げたエルフェンの手元に、マイクが渡され、エルフェンはゆっくりと立ち上がった。
「…大変、面白い発表でした。ただの混合魔力ではなく、人間と悪魔の混合魔力の計測は、非常に興味を惹かれます。ですが、二つ目の仮説、相互理解の測定について質問があります」
エルフェンのその言葉に、ラウラは身構えた。
やはり、そこを突いてくるか。予想はしていたが、相手がエルフィーの妹であり、厳しい査読者としても知られてるエルフェンとなると、どうしても冷や汗が出てしまう。
「契約を介さない人魔の混合魔力を測定する、というお話がありましたが、そもそもこの世界に悪魔など、そういるものではないでしょう。どのようにサンプルを集めるおつもりなのか、聞かせていただけますか?また、相互理解、というのをどの程度定義するのか、というのも教えてください」
エルフェンはそれだけ聞くと、座ってしまった。
立っていても頭が見えない程小さいのに、座ってしまうと余計にどこにいるのか分からなくなってしまう。
だが、そんなことを言ってても仕方ない。ラウラは一息ついて、口を開いた。
「ありがとうございます。まず、一つ目の質問についてですが、現在弊校エストラでは、魔界との交流ということで、悪魔の留学生や臨時講師を受け入れています。そちらの講師達に研究の協力を依頼するか…」
「…もしくは、ボクが魔界に直接連絡して、悪魔達に協力を依頼するか、どっちかだね!」
ラウラは途中まで答えたが、途中でヴァーレアの人格を前に出した。魔界に関する話ならば、悪魔であるヴァーレアに託した方が説得力がある。
ただそれだけの判断だったのだが、一瞬だけ髪の色や目付き、声色までも切り替わってしまったことに、聴衆の一部は困惑していた。
今までも、壇上でヴァーレアと人格を入れ替える、ということそのものは、学会発表でもやったことはある。呆然としている研究者は、ラウラを初めて見た研究者なのだろう。
だが、いちいち説明するのも面倒だ。ラウラは研究者達を一瞥だけして、そのまま次に進むことにした。
「二つ目の質問についてですが、異種族間での魔力混合における一般的な拒絶率が低くても二割程度であることを加味し、無作為に選別した百例程度の協力者を確保した上で、拒絶率が二割前後、もしくはそれ未満である場合は、魔力においても相互信頼がある、という定義をする形で問題ないのでは、と考えています。エルフェン先生、いかがでしょう?」
ラウラはそう言うと、会場にいるエルフェンに問いかけた。すると、エルフェンが再び立ち上がり、ラウラのいる壇上から少しだけ頭が見える状態になった。
「お答えいただき、ありがとうございます。実験協力者の確保が大変だとは思いますが、ヴァーレア先生やお姉ちゃんと協力して、頑張ってください。以上です」
エルフェンはそれだけ言うと、マイクを返して座った。
どうやら、納得してくれたらしい。ラウラの精神世界にいるヴァーレアは、外から見えないからと言って、大きく安堵のため息を吐いていた。
ーーー能天気なものだ。今質問の矢面に立たせてやろうか、とも思ったが、止めた。ヴァーレアなら、言葉こそ軽薄だが、研究内容については自分と同等に答えられてしまうので、罰にはならない。
呆れながらも、ラウラはその後の質問に答え続け、発表を終えたのだった。




