ラウラの仮説
「仮説の一つ目は、私達が結んでいる人魔契約の性質の影響です。このデータをご覧ください」
ラウラはそう言うと、スライドの中にある資料を指す。そこには、ソロモニアから回収した膨大な量のデータが掲載されていた。
「今回、この仮説を検証するにあたり、数ヶ月前に滅亡したソロモニアという組織の、人魔契約書類及び魔力混合測定データを解析しました。それによると、人魔契約の術式には、混合における障壁…化学でいえば、エネルギー障壁とか活性化エネルギーですね。混合させるために必要な壁を、大きく下げることが分かりました」
ラウラはそう言いながら、スライドに添付したお手製のグラフを示す。研究者達がざわついているが、まだ言葉を止めるつもりはない。
ラウラはスライドを切り替え、ソロモニアから回収した、混合魔力のデータの一部を表示させた。
「測定条件が一部再現不可でしたので、私達の規格とは異なる部分もありますが…ソロモニアが持つ悪魔との魔力混合では、非常に高い拒否反応率を示していることが分かります。ですが、ソロモニアは高い拒否反応率を契約術式で障壁を下げさせたことで、混合魔力を作り出して扱い、ドゥローラの支配に非常に貢献し続けた…」
ラウラはそう言うと、一息ついた。だが、すぐに口を開いた。
「この事実と、私達のものを含めた各契約術式の解析結果から、人魔間での契約術式というのは、非常に強い触媒効果を持つものである、と推測されます」
そう言うと、ラウラは一旦発表を少しストップし、聴衆を見回す。
聴衆はラウラのスライドとレジュメを交互に見比べている。
「…そして、二つ目の仮説ですが…これは、感情的な部分であるため、非常に定量化のしにくい要素でもあります」
ラウラはそう言うと、スライドを切り替えた。その表題は、「仮説② 相互理解」である。
「一見すると、研究資料に乗せるようなことではないかもしれません。ですが、ソロモニアでの研究記録等を見ていると、どうしても無視することができない要素であったため、この仮説を入れました」
ラウラは少し、苦々しい表情をしていた。
ここから先は数字も何もあったものではなく、ソロモニアの研究資料に基づく話のみになってしまうので、信憑性としては落ちてしまうからだ。
ーーーだが、もう戻れない。言ってしまった以上、話し切ってしまうしかない。ラウラは腹を括った。
「ソロモニアでは当然、悪魔への理解など微塵もありません。それが最も顕著に表れてるのが、高い拒否反応率です。ソロモニアの研究記録によると、悪魔達は当然ソロモニアに反発していたようでした。そこを契約術式による触媒作用で押し切って、無理矢理混ぜ合わせていました」
ラウラは淡々と話している。それを、聴衆は静かに聞いていた。
「高い拒否反応率を持つ相手ですら、隷属させて魔力を強引に混ぜられるほどの触媒効果を持つ契約術式。もしもこれを、お互いが全く拒否していない人間と悪魔で行ったならば…というのが、二つ目の仮説になります」
ラウラはそう言うと、スライドを切り替える。今後やらなければならないことを書いたスライドが表示された。
「ですので、今後は私とヴァーレア以外の人間と悪魔の組み合わせで、契約を介さない魔力混合サンプルデータを回収していく必要があるかと考えています。私の発表は、以上です」
ラウラはそれだけ言うと、壇上で軽く頭を下げた。聴衆はそれに対し、盛大な拍手で応えてくれた。
「さて、ラウラ先生への質問がある方は、挙手してください!」
司会者が聴衆に向けて語りかけた。
しばらく手があがらなかったのだが、見覚えのある小さい手があがっているのが、壇上から見えた。




