異常の露呈
「ほう、かい…?」
ハイーラは、バルディのその言葉に呆然としているようだった。
実際ペルセとしても、話の中身を完全には理解できなかった。小難しい話ばかりであったので、正直、面白くもない。
「はい。通常であれば、このような調査には部下を派遣するところですが…。世界の崩壊につながるほどの災害であるため、私が直接赴いた次第です」
「………そ、そう、ですか…」
バルディは表情一つ変えていないが、ハイーラは言葉がうまく紡げないようだった。
ーーー暇だ。よく分からなくて、つまらない。
足をプラプラさせながら、視線をさまよわせる。
すると、ふと目の前にある、先程から図や文字を出してる紫色の弾が視界に入る。
ーーーどういう仕組みで、この弾から図やら文字やら出てきてるのか。
それが、猛烈に気になる。気づいたときには、その弾へ、手を伸ばしていた。
そして、手を触れた。ーーーその瞬間だった。
空気を揺さぶるような、大きな音と共に、その弾が壊れ、ばらばらに空気中へと散らばった。
「わぁっ…!」
音に驚き、ペルセは思わず小さな悲鳴をあげた。そして、今まで空間に出されていた文字や図が、霧のように消える。元々、存在してなかったかのように。
「ちょっ…あんた、何してんの!?」
「何って…」
そうハイーラから言われたが、何もしてない。強いて言うなら、バルディの差し出した弾にちょっと触れただけ。
なのになぜ、あんな音をたてて壊れたのか。ペルセには、まるで分からなかった。
「一体、何が…?」
今まで表情を変えなかったバルディも、少し驚いたような表情だ。自分は、それほどおかしなことをやってしまったのか。
オロオロしていると、背中に軽く手を添えられる感触があった。視線を向けると、マールの手だった。
「…まだ、『残ってる』のかな〜」
「残ってる…?」
残ってるとは、一体何のことだろうか。自分に、何かあったのか。それを聞いても、マールは優しく、ペルセの背中を叩いてくるだけだった。
ーーー何だか、不思議と落ち着いてきた気がする。以前もマールの手には泣かされたし、この手には魔法でもかかってるのか。
そう思いつつ、目の前にいるバルディの方を恐る恐る見る。バルディは、難しい顔をしていた。
「魔力媒体で記録するのは、危険か…」
小さく呟くと、胸ポケットからメモ帳とペンを手早く取り出し、何かを書き始めた。
ペンの動きは、極めて速い。ハイーラが何か書いてるところを見たことはあるが、それよりも数倍、素早かった。
「…残ってる、との発言がありましたが…その件に関して、少しお聞かせいただけますか?」
バルディは手を一旦止めると、マールの方に向き直った。マールは相変わらず、のんきな様子で対応していた。
「私も詳しくはわからないんですけど〜…。この子の力、アスティアノの悪魔の魔力を完全に拒絶するみたいなんですよ〜。怪我を治そうにも、私達の治癒魔力が全く届かなくって〜」
治癒魔力…そんなものが使えるのか。ペルセにとっては、初耳だった。
しかも、それが自分には届かなかった、というのか。特に、拒否などしているつもりはないのに。
「…多分、無意識だろうとは思うんですけどね〜」
「そんなことが…」
バルディはマールの説明を聞きながら、メモ帳に何かを書いてる。あれだけ動かして、疲れないのだろうか。
「…では、あと一点だけ、情報を共有させていただきます」
バルディは咳払いをしながらそう言うと、自分の掌の上に、先程と同様な紫色の弾を作り出した。しかし、今度はそれを転がしてくることはなく、弾の中に手を突っ込んだ。
「紙媒体になりますので、少し見にくいのですが…」
そう言うと、弾の中から数枚の紙を取り出し、ペルセ達の前に差し出した。
紙には、先程空間で表示されていたものよりも、無機質な字が刻まれている。何が書いてあるかは、やっぱり分からない。
「こ、これは…?」
「現場に残されてた痕跡を、勝手ながら調査させていただきました。このアスティアノの中でも、比較的上位に位置する悪魔の魔力の残滓が確認されています」
「…上位の、悪魔…」
ハイーラが再び、食い入るように差し出された紙を見ている。そんなに、面白いのだろうか。
「…ご存知であれば、何か情報はございますか。その者にも、後で話を聞きます」
ハイーラはそれに対し、苦々しい表情をしていた。しかし、バルディの言う、上位の悪魔。これが誰なのか、自分にはハイーラ自身が言っていた。
「あんどれいす、ってヤツじゃないの?」
「ちょっ…ペルセちゃん!?」
だから、それを言うことに、何のためらいもなかった。




