アスティアノ崩壊危機を告げる男
3人と1人の悪魔が、机を挟んで向かい合った。
ハイーラとマールが、ペルセを挟むように座っている。少し、窮屈だ。
しかし、もしもお父さんとお母さんがいたら、こんな感じなのかも、とも感じる。二人共女性なので、実際には違うのだろうけど。
向かい側には、先程来たバルディと名乗る男が静かに座っている。その手元には、先程ハイーラが用意したお茶とお菓子が置いてある。
男は銀色の髪を、全て頭の後ろの方に流している。その目元に細い枠なようなものをつけており、どこか頭が良さそうに見えた。
何より印象的だったのは、この場に合わなさそうな、ものすごく整った服装だ。首元まで締まってるように見えるのだが…アレは、苦しくないのだろうか?
それにしても、あれほどハイーラが怯えるのだから、一体どんな男が来るのかと思った。しかし、近寄りがたくはあるが、然程、怖そうには見えなかった。
「それでは、改めまして…。私、サトゥニア直属、魔界災害調査管理部の部長を務めております、バルディと申します。本日はお時間いただき、ありがとうございます」
バルディはそう言うと、3人の前で深々と頭を下げた。
隣を見ると、マールとハイーラも頭を下げている。これは、自分も頭を下げなければならないのか?
そう思ってると、聞く前にハイーラから頭を下げろと言わんばかりに、後頭部を押し下げられた。
言葉こそなかったが、何だか力が強い気がする。
ーーー痛い。そんな強く押さなくてもいいのではないのか。
そう言いたかったが、何だか雰囲気的に言葉を発することが許されなさそうだ。
少しすると、ハイーラの押す力が緩み、頭を上げることができた。ペルセは、文句を言いたげにハイーラに視線を向けた。
「…ちょっと!前向きなさい!今から、相手が話をするわよ!」
ペルセ視線に気付いたハイーラは、焦りながらも、小さく、早口で囁いてきた。
今は、文句を言える雰囲気ではなさそうだ。少し迷ったが、渋々、ペルセは前を向くことにした。
「先程もお話させていただきましたが、先日この家の敷地内で大規模な魔力の乱れ…いえ、魔力災害の類いが発生しました。それに関しまして、話をお聞きしたくて、今回お伺いしました」
「ま、魔力災害…!?」
相手が何を言ってるのか、半分も分からない。ここで、何かとんでもないことでも起きたのか。
ーーー少なくとも、自分には心当たりがない。
そう思いながら、バルディの話を聞き続ける。
「まずは、我々が持っている情報に関して、共有を行います。こちら、どうぞご覧ください」
バルディはそう言うと、掌に1つの、紫色の弾を作り出し、それをペルセ達の方にスッと差し出してきた。
弾はペルセ達の眼前に転がってくると、そこから目の前の空間に、様々な文字や図が載せられた文章が表れた。
「えっ…!?」
「これは〜…なんだろ〜…」
その文章を、ハイーラとマールが両隣から食い入るように見つめてくる。特にハイーラは、データを見て唖然としている。
何か書かれてるが、見たことのない記号ばかりで、難しくて読めない。図についても、何だか上下にジグザグした棒線のようなものが書かれてるだけで、何を意味してるのかさっぱりだ。
「このアスティアノには、質の高い魔力が空気中に常時充満しています。ですが、先日の災害では、その質の高い魔力でさえ、丸ごと『上書きされかける』事態となりました。…すなわち…」
バルディはそこまで言うと、一度軽く息を吐いた。一時の、沈黙が訪れる。
何だか、嫌な静寂だ。その間、誰も言葉を発さない。
バルディはまぶたを閉じ、何か考えているようだった。マールは変わらずデータを見ていたが、ハイーラはデータも気にしつつ、バルディに視線を向け、次の言葉を待ってるようだった。
そしてーーーバルディが目を開き、言葉を紡いだ。
「…このアスティアノが、『丸ごと崩壊する危険性をもった魔力災害』が発生した、ということです」
バルディのその言葉の意味だけは、ここまでの話を理解できなかったペルセでも、分かった。
ーーーそれが、ただ事ではない、ということだけは。




