査読者エルフェンの質問
一人目の発表が終わり、質疑応答の時間に入る。研究者は、飛んでくる質問に、静かに、しかし理路整然と答えていた。
質疑応答の時間の終わりが迫り、司会者がきり上げようとした頃に、聴衆の中から一際短く、そして小さい手が上がっているのが見えた。
「…エルフェン…!」
妹の手だ。そう理解するのに、時間はかからなかった。
そして、それと同時にエルフィーは頭を抱えた。
研究者としてのエルフェンは、もちろん専門分野に関する知識もすごいのだが、非常に報告書や発表を厳しく見ることで知られている。
今回の学会は魔力研究学会であるため、エルフェンのことはあまり知られていないのだが、エルフェンのことが知られている非魔力薬学の学会では、エルフェンがいるというだけで研究者の間に緊張が走るほどだ。
姉であるエルフィーすら例外ではなく、学生を見る際のレポート添削のやり方は、完全に妹の影響を受けている。
ーーーそんな妹からの質問。平穏には終わりそうにない。
「始めまして。魔力不使用の薬剤の合成開発研究を専門に行う、エルフェンと申します」
マイクを受け取ったエルフェンは、ボソボソした声で話し始める。マイクがあるから聞き取ることができるが、地声だったら聞き取れないであろう程に、ボソボソした声だ。
エルフェンの言葉、そしてその見てくれを見た周りの研究者達は、どよめいていた。
しかし、エルフェンは構わず言葉を続けた。
「今回の研究のレジュメ、及び発表、素晴らしいものだったと思います。ですが一点だけ、気になるところがありました」
その言葉を聞き、エルフィーはツバを飲み込む。隣にいるラウラでさえ、息を殺して見守っていた。
「…素人質問で恐縮なのですが…この場合、条件が非常に限定的です。それゆえ、この結論を導くためには、サンプル数が足りないようにも見えます。にも関わらず、結論を断言できたのは、なぜでしょうか?また、このような現象が起きた理由、推測でも構いませんのでお聞かせください。他の研究資料等ですでに既出でしたら申しわけありませんが、お答えいただければと思います」
エルフェンはそれだけ言うと、マイクを返して座った。
ーーーかなり切り込んでいる。ホームグラウンドではない分野のはずなのに、若手の研究者よりも遥かに鋭く切り込んで見せた。
問われた研究者が、言葉が出ないようだ。完全に、予想外の方向からの質問だったらしく、壇上で慌てて資料を確認していた。
「…エルフィー先生。あの方を作り上げた一端は、間違いなくあなたですよ」
「そうやろうなぁ…」
ラウラとエルフィーは、そんな様子をしみじみと眺めていた。
エルフィーとエルフェンは姉妹ゆえ、家の中で研究の相談をすることがよくある。専門分野が真逆で、しかも報告書の書き方にもこだわるエルフェンだからこそ、素人質問ながら妙に深いところを踏み抜いてこれる。
そのため、エルフィーとしては、妹でありながら、ラウラと同等に信頼できる研究の相談相手のような立場として接している。
エルフェンも恐らく、同じ感覚かもしれない。だからこそ、このような場で堂々と、専門外にも関わらず意見を述べられる研究者となってしまった。
「…エルフェンにとっては、こういう場ってあの研究者と堂々と話せて、楽しい場なんよね…」
「コミュニケーションとしてではなく、発表者と聴衆としての、学術的な話の方が楽しい、というタイプですからね」
「研究者や査読者としては理想的ばってん…やられる側はキツかやろね」
エルフィーはそう言いながら、何とか必死に答えてようとする壇上の研究者を眺めている。あまりに核心を突かれすぎて、逆に答えきれないらしい。
だが、あの研究者にとって、エルフェンの厳しい質問を受けたことは、よい経験になったことだろう。エルフィーはそう思い、無理やり納得することにした。




