学会発表開幕
「…エルフェンさんは、相変わらずでしたね」
「あぁ。ウチの妹ながら、おっそろしいヤツよ」
他の研究者への挨拶も含め、一通りの準備を終えたラウラとエルフィーは、発表者用の控えスペースで談笑していた。
学会の開始までは、まだ少し時間がある。妹の様子を見に行ってもよいのだが、数百名もいる聴衆の中から、一際小さいエルフェンを探すのは面倒だ。エルフィーは立ち上がろうとして、一瞬で止めた。
「エルフェンさんって、魔力関係の研究は専門外でしたよね?」
「魔力に関しては専門外よ。ばってん、アイツは人間の体、生き物の体の構造については恐ろしいほどによく知っとるけんね」
「それは知ってますよ。そういうのを研究するのが専門の方ですからね」
ラウラの言う通り、エルフェンは魔力に関しての研究者ではない。
ーーーエルフェンは、自分とは真逆。非魔力薬剤の合成開発を主軸として行う研究者だ。
この手の学会に、別分野の研究者が後学のために来ることそのものは珍しくない。だが、エルフェンの場合は、意味がかなり違ってくる。
「ただまぁ…知っとると思うけど、ウチの研究を手伝うこともあるけん、魔力運用の機構は、その辺の学生よりは知っとるんよねぇ…」
「…エルフィーさんも、エルフェンさんの研究内容に必要な知識はあるのでは?」
「そらウチもエルフェン手伝うことはあるけんね」
エルフィーはサラッと答えた。だが、その答えを聞いて、ラウラは呆れたようにため息を吐いた。
「姉妹で研究談義ができる、しかもお互いの専門分野が真逆である…。そんな状況の価値、理解してます?」
「そんなん言われても…ウチからしたら、妹と仕事の話ばしとるだけばってん…」
エルフィーとしては、その程度の感覚に過ぎない。ゆえに、そのまま本音を言ったのだが、ラウラは再びため息をつくと、それ以上は何も言わなくなってしまった。
「それでは、第百二十六回、魔力研究学発表会を、開催致します!!」
すると、壇上の方から、開会の挨拶が聞こえてくる。
司会が宣言した直後、大きな拍手が聞こえてくる。
ーーーついに、始まる。エルフィーは自身の頬を叩き、改めて気合を入れる。
一方のラウラは、全く態度を変えていない。いつもの気怠げな目で、ステージの方を見ているだけだった。
「では、一人の発表者は、どうぞ壇上にお立ちください!!」
司会者がそう言うと、すでに裏でスタンバイしていた一人の研究者が、壇上へと登る。そして、自身の後方に、プロジェクターを用いて資料を映し出した。
数百名のオーディエンスが、資料に注目している。いつもの、よくある学会発表の光景だ。
「…それでは、私の発表を始めさせていただきます。私の発表する内容は…」
壇上に立った研究者は、マイクの角度だけ調節すると、静かな声色で発表を開始するのだった。




