研究者同士の会話
取れるデータを取ったエルフィーは、実験を終了した。そのデータを、実験報告書に載せる形式に整えていると、ラウラが観測者スペースに戻ってきた。
「お疲れでした」
「お疲れ〜」
あまりに、平然としている。先程まで、あの意味不明な翠色の混合魔力を生成していた片割れの人間だとは思えないほどに。
ーーーいつものことながら、恐ろしい。
「…何だか、私達の魔力がますます混ざってますね」
「そうなんよね。特にこの拒否率の低さなんかは目を惹くとこばい」
ラウラが端末を覗き込んでくる。やはり、人間の魔力運用を研究しているラウラにとっても、この魔力の数値はおかしく見えるのだろう。
「つか拒否率が一桁下がっとるばい…。ソロモニアの一件で、ヴァーレアとの間に何かあったと…?」
「え?…いや、特に…」
「拒否率が一桁下がるって、聞いたことなかよ」
先日のソロモニアとの騒ぎの件の前に測定したデータと見比べると、魔力の拒否反応率が一桁分下がっていることが分かった。
ーーーやはり、おかしい。測定した側であるエルフィーですら、首を捻ることしかできない。
「そういえば、少し良いですか?崩壊したソロモニアから回収したデータがあるんですよ」
「ほう?」
ソロモニアの持っていたデータ。組織としての存在価値は底辺に等しいが、人間と悪魔の魔力混合データや悪魔の魔力運用、という点においては、確かに価値のあるデータだろう。
横からラウラが割り込み、端末を操作する。しばらくすると、別のファイルが立ち上がり、データが表示される。
「人間と悪魔の魔力混合データサンプルが、非常に多いです。ここだけは、感謝ですかね」
「…さすがに、数百年の歴史ある組織だけあるわ。一から全部見るのは、骨が折れそうやね」
自分が取ってきたデータならいざ知らず、新しいデータを多量に出されると、解析が非常に面倒そうに見える。だが、ラウラは変わらず淡々とデータをフィルタリングしていく。
「ただし、魔力の拒否反応率が非常に高いです。平均すると、おおよそ五〜六割ほど。高いものだと、八割程度あります」
「…やっぱ、無理矢理繋げようとしとったからかね?」
「その可能性は、否定できないかと」
このデータだけで断言することは難しい。だが、仮説として立てることは可能だ。そこは、ラウラも分かっているようで、断言はしなかった。
「ですが、拒否率の低さに関して、私の中に仮説はあります。今度の学会で、発表する予定です」
「アレか…。アレ、ウチも参加するけんね」
「知ってます」
そう遠くない時期に、学会が行われる。魔力に関する研究を行う研究者達が集まる、国際的な発表会だ。
エルフィーも当然、魔力を使った薬剤の合成開発の第一人者として、論文を持って参加する予定だ。
「ラウラ先生のこの実験については、ウチの名前もちゃんと出してよ?共同研究者としてな」
「もちろんです。この研究は、普通の魔力運用ではないので、学生に関わらせるつもりはありませんからね。エルフィー先生だから、お願いしてるんです」
「…ありがたいこと言うてくれるやん。ウチも、このデータ使って、薬作るのに役立てられるけん、ウィン・ウィンの関係よ」
エルフィーとラウラはそう言うと、静かに笑い合った。
昔から、元々のラウラの専門である魔力運用研究とは別で、この混合魔力の研究はずっと二人でやってきた。
ーーー否。三人でやってきたのだ。
そんなことを考えていると、ガラスの反射面にヴァーレアが姿を表した。
「結局、ボクとランちゃんが仲良しだから、ってことになりそうだけど…」
「せっかくいい空気やったのに、ぶち壊しばい!?」
しんみりした空気を、ヴァーレアが壊してきた。ラウラはそれに対し、小さくため息を吐いた。
あまりに、チープすぎる理論。だが、ヴァーレアの言ってることも、強ち的外れとは言えなかった。
少なくとも、ラウラはヴァーレアを深層心理上では拒んでいない。でなければ、あんな低い拒否反応率が出るはずがないのだ。
「…ヴァーレア。そんな曖昧なもので、研究者は納得しませんからね」
「分かってるよぉ…。でも、仲良しなのはホントじゃん!」
「…………うるさいです」
ヴァーレアの素直な感情表現に、ラウラは気まずそうにしながらも否定しない。いつもの、二人の光景だ。
こんな二人だからこそ、深く信頼し合ってる二人だからこそ、魔力混合の拒否反応がないのかもしれない。エルフィーは平和な光景を前に、静かに笑うのだった。




