混合魔力の異常性
実験を終えたエルフィーは、得られたデータを元に、教授室で作業をしていた。先程の得られた色の変化や匂い、そしてサンプルの魔力反応性やそこから得られる解析結果を整理していく。
ーーー端末を操作し、フォルダを開けば、蓄積され続けて膨大な容量になってしまった、エルフィーの個人所有データがある。そこにまた一つ、今回得られたデータを追加した。
「…っと、そろそろ約束の時間やね」
時計を見ると、すでに午後三時になろうとしている。
今日はこの後先約があるゆえ、教授室からしばらく離れる必要がある。エルフィーはどこからか裏紙とペンを持ってくると、書き置きを作った。
「さて…行こか」
元々、自分の研究室所属の学生には、事前に共有してある。書き置きを教授室の扉に貼り、エルフィーはそのまま、自身の研究室を後にした。
とはいえ、目的の場所までは、然程距離が離れている場所ではない。同じ棟の中で、階層が違うだけの場所だ。階段を登り、目的地へと向かう。
間もなく、午後三時。約束の時間の数分前に、その場所の前にある扉へと辿り着いた。
「失礼、エルフィーやけど。入るけん」
雑にノックをした後、返事を待つことなく扉を開いて中へと入る。
ーーー中には多量の精密な魔力測定機材が所狭しと並んでいる。エルフィーの研究室にもないような、かなり測定感度の良い機器だ。
そして前を向くと、まるでレントゲン室のような、観測者と被験者を分けた空間が広がっており、被験者スペースには、すでに先客がいた。
「…時間通りですね、エルフィー先生」
「おう。いつも通り始めるばい、ラウラ先生」
それだけ言うと、エルフィーは周りの機材を一斉に起動させた。機械が重い起動音をたてて、立ち上がっていく。
その間に、被験者スペースにいるラウラはラウラで、先に準備を進めているらしい。機械音で会話は聞こえにくいが、自身の脳内にいる悪魔・ヴァーレアに語りかけているらしい。
ーーーエルフィーから見ると、ヴァーレアが表に出てきておらず、鏡にも姿を現してない今、完全にラウラが独り言を言ってるようにしか見えない。だが、そんなことはもう、今更だ。
すると、ラウラが無言でこちらへ視線を向けてくる。それに対し、エルフィーはラウラに向けて、小さくサムズアップした。
ーーー言葉のやり取りはいらない。たったこれだけで、二人には十分だった。
ラウラは被験者スペースで、自身の魔力を放出する。その瞬間、測定機器が大きく反応を示す。数値を確認すれば、完全に人間魔力の反応そのものだ。ここに、異常は何もない。
しばらく様子をうかがっていると、ラウラの体から、翠色の魔力が発生し始めた。その瞬間、測定機器の数値が大きく乱れていく。
始まった。ラウラとヴァーレア、人間と悪魔という異種族間の混合魔力の発生だ。
エルフィー達がエストラに来てから数百年の間で、人間と人外の交流が進み、血の交わりによる影響や魔力の混合等に関する研究は進み、サンプルも増えていた。だが、この二人の場合、何回やってもおかしなデータしか出てこない。
特におかしいのは、魔力の拒否反応率だ。魔力とは臓器と同じであり、他者の魔力の受け入れる際に、どうしても互いの魔力が反発する現象が起きることが知られている。
その割合は一般的に、同種族で魔力混合を行う場合であっても低くて数%程度、ましてや異種族なら二割以上出ると言われている。
ーーーしかし、今目の前にいる二人の魔力拒否反応率は、極限までゼロに近づいている数値だ。精密な測定装置なのに、測定限界に達しそうなほど低い。
何度見ても、この魔力の性質だけは意味が分からない。測定を継続しながら、エルフィーは実験を完遂するのだった。




