エルフィーの研究者としてのこだわり
ある日のエストラ大学部構内。
大学部では、エスカン国内中から集められた優秀な講師達が授業を行うだけではなく、それぞれの研究室での研究も行われていた。
エルフィーの研究室でも、それは例外ではなかった。複数人の学生が、データの記された紙を持って、エルフィーのいる教授室と実験室とを、小走りで往復している姿が日常茶飯時だった。
「ふむ…この結果やと、効力の強さは…」
エルフィーは薬品を混ぜたフラスコを観察している。フラスコの中では、毒々しい色をした液体がユラユラと水面を揺らしていた。
この結果は、あまり芳しくはない。効力は強いかもしれないが、その分の毒性も強く出てしまっている。扱いが難しく、一般に流通させてよいものではない。
そんなことを考えながら、フラスコを揺らしていた。
「エルフィー先生、探しましたよ!また何も連絡無しに教授室離れてんですから!」
すると、背後から一人の学生が声をかけてきた。どうやら自分を探して走り回ったらしく、若干息が乱れている。
「んぉ?…おぉ、すまんすまん!データ見てたら気になることできたけん、とりあえず試してみただけばい!」
「それで振り回されるのはこっちなんですよぉ!?」
しかし、エルフィーにとってはいつものことだ。
気になることがあったから、時間のかかるものでなければとりあえず確かめる。それを実行しているだけだし、そういうことを普段からやる教授であることは、学生にも周知してある。
文句を言われるのは筋違いだ。だが、あえて口には出さず、フラスコを台の上に置き、学生の方を見た。
「そんで?何か用かい?」
「あ、はい。今度の中間発表で使う用のデータが取れましたので、その確認を、と」
「…そんくらいやったら、適当に置いといてよかし、そもそもデータで送ってくれてよかよ?」
「先生はお忙しいですし、なる早で確認していただきたいので…!」
ーーーそれを言われると、ぐうの音も出ない。エストラ高等部のクラス担任業務があることに加え、小中高大学部の講義も持っている。エルフィーがずっと研究室にいられないのは、仕方のないことではあった。
「…分かった。見してみ」
「こちらです」
エルフィーは眼鏡を光らせながら、学生が差し出してきた中間発表のレジュメを受け取り、眺めていく。
データの精度としては、特に異常はない。誤差範囲内の結果だ。必要な記載事項も、すでに書かれている。
しかし、考察の部分に、まだ甘いところがある。エルフィーは胸ポケットから赤ペンを取り出すと、修整点を一切の迷いなく書き込み、学生に返した。
「…先生?」
「結果のとこは良か。ばってん、そこからの考察に甘か部分が多い」
冷静に突き返すと、学生はポカンとしているようで、響いてるか分かりにくい。
だが、こればかりは譲れない。エルフィーは少し、強めにツッコむことにした。
「一言で言えば、結果と考察の間に、明らかに飛躍がある。お前の中に答えがあるんなら発表で口頭でも言えばよかばってん、あるとや?」
「え…」
「…なかなら、この結論を導くことはできん。すまんが、データの分析ばもっかいやり直してこんね」
学生は完全に、鳩が豆鉄砲を食ったような反応をしている。どうやら、エルフィーの指摘は予想外だったらしい。
しかし、ここで甘やかすつもりはない。締切まで、まだ幾分かの時間はある。論文を書く苦労というのを、この研究室で存分に味わってもらおう。
肩を落としながら帰る学生を見届けた後、エルフィーは中断していた実験を再開した。




