エストラ講師の飲み会
二学期が始まって、約一週間。あっという間に週末となってしまった。
エストラ学生街から少し外れた居酒屋で、月に一回程度行われる、エストラ講師有志での飲み会。普段はその手の飲み会に参加することがないラウラだったが、今回なぜだか引っ張ってこられた。
「いや〜、今週も疲れたばい」
ーーーその張本人が、いつもの橙黄色魔女っ娘衣装に身を包み、眼鏡をかけた小柄なエルフの女性で、自分の同期でもあるエルフィーだ。ラウラは目の前のグラスを揺らしながら、エルフィーの方へ視線だけ向ける。
「今夜飲み会あるけん、来てよラウラ先生!」
職員室で放たれたその一言で、ラウラはエルフィーから半ば強制的に連行された。長い付き合いなだけあり、エルフィーが自分を飲み会等へ連れて行く時は、いつもこの調子だ。
ラウラは他の講師達と、当たり障りのないやり取りをする。クラスの様子、生徒の様子、そして自身の行っている研究の状況。そういった情報交換をするだけなら、こんな場でなくてもよいとは思う。だが、普段より皆饒舌だ。
「…ランちゃん、もう少し愛想よくしなよ」
「うるさいです。人込みは苦手なんですよ」
ラウラの精神世界から、ヴァーレアが頭の中に語りかけてくる。ラウラはぶっきらぼうに、グラスの中に入ってるハイボールを一口含みながら、ヴァーレアをあしらった。
炭酸特有の泡立っている感覚が、口の中に広がる。アルコールも炭酸も嫌いではない。だが、このような場でもなければ、飲みたいとも思えない。そんな絶妙な立ち位置の飲み物だ。
「ラウラ先生、相変わらずやねぇ」
そんなラウラの隣を、エルフィーが我が物顔で陣取っている。
ーーー思えば、ドゥローラから亡命してきたラウラがエストラで働き始めた頃と時を同じくして、エルフィーもエストラ講師としてやってきた。長命なエルフゆえ、悪魔をその身に宿すラウラとの付き合いは、それこそ何百年にもなるだろうか。
そう考えると、ある意味エルフィーとは腐れ縁、になるのだろうか。
「ラウラ先生、どげんしたと?ウチの方ばじっと見つめきて。ウチの顔に何かついとるんかね?」
「…眼鏡がついてますよ」
「え、マジか…。ってそりゃ眼鏡は顔についとってもおかしくなかやろ!?」
じっと見つめていると、エルフィーから訝しげに聞かれたので、咄嗟に誤魔化した。とはいえ、エルフィーもこんな雑なフリに乗ってくれるあたり、ノリもいい。
ーーー昔から何一つ変わっていない。出会った当時から性格も、そしてその見た目も。だからこそ、ラウラはエルフィーに対し、比較的素に近い、それこそヴァーレアに向けるような態度をそのまま取れていた。
「まぁ、それは冗談として」
「うん、分かっとった。分かっててノった」
「…アナタとの付き合いは長いなぁ、と思っただけですよ」
素直な感想を言うと、エルフィーは一瞬ポカンとした様子を見せる。だがすぐに理解したらしく、口を開いて大きく笑い始める。
「はっははははは!!どげんしたとね、ラウラ先生!酒が回ってきたか!!」
「…そう、かもしれませんね」
こういう場なら、何を言っても酒のせいにできる。人ごみが好きではないので、飲み会に行くのは気が進まないが、この一点だけは飲み会のメリットだと思っている。
ーーーまさに、酒は潤滑油。そう痛感していた。
「まぁでも、そうやね。ウチら、エストラの最初期…は言い過ぎばってん、創立数年後くらいから今に至るまで、ずっと同じ職場やけんね」
「エスカンに逃げてきたばかりの頃の私の、唯一の飯の種でしたからね」
「それに研究までやらしてくれるなんて、良か職場になったもんばい」
「…そうですね」
エスカンに逃げたラウラは、当時の国王の勧めもあり、創立数年しか経っていない国立のエストラで教鞭をとることになった。
当初は教師職だけであったが、後々、エストラの方針で大学部を追加し、エストラを研究機関に昇格させたこともあり、研究職としても働けることとなった。
ーーーその恩恵を、ラウラとエルフィーは強く受けたと言ってもいい。
ラウラは過去を振り返りながら、グラスの中に入ってるハイボールを一気に飲み干した。




