新しい生活の始まり
次の日の朝。
ペルセはエストラの校門の前に立っていた。その隣には、前回も今回もホストファミリーを務めるラウラの姿があった。だが、今回は一緒に来たわけではなく、すでに出勤していたラウラが、校門まで迎えに来ていた。
「…今日から授業ですね」
「うん!!また授業を受けられるの、楽しみ!!」
ラウラが優しく声をかけると、ペルセは気合が入ってる様子で答えた。
再び、エストラで勉学に励める。しかも今回、魔界から来たのは自分だけではなく、バルディとイアノも正式にエストラに招かれている。こんなの、嬉しくならないわけがない。
「…そう言っていただけると、先生としては光栄ですよ」
「えへへ」
ラウラは優しく、ペルセの頭に手を添える。照れ臭くなり、ペルセは頬を掻きながら視線をそらした。
「おはようございます!」
「はい、おはようございます」
まだまばらではあるが、すでに登校時間ゆえ、周りに他の生徒もいる。その生徒達がラウラに挨拶をし、ラウラも穏やかに挨拶を返している。
ーーー平穏。自分を狙う輩も、ラウラを害する者達も、もう誰もいない。ここでは、安心して過ごすことができる。
「ペルセちゃーん!!」
エストラの校舎を眺めながら黄昏れていると、後ろから聞き覚えのある黄色い声がした。振り返ると、そこにはダリスと共に登校してきたミノトが手を振っている。
ダリスはいつものように真面目な表情を貫いているように見えて、口元は緩んでいる。
「あ、ミノトだ!」
「ふふ、あの子は朝から元気ですね」
歩み寄ってくるミノトを、ペルセとラウラは見つめながら、静かに笑っていた。
天真爛漫。その言葉はまさに、今のミノトを表すのにピッタリな表現だろう。そう思えるほど、今のミノトの笑顔が眩しかった。
そんなことを思ってると、いつの間に距離を詰めてきたのか、ミノトに抱きつかれた。
「おはよ!!ペルセちゃん!!」
「わわっ!?」
勢いが強く、後ろに転びそうになる。何とか踏ん張って耐えることができたが、かなり危なかった。
「おいミノト。先生への挨拶が先だろ」
「ダリス!!空気読んでよ!?」
「目の前に先生いるの分かっててそれ言ってんなら、周りが見えてないにも程があんだろ」
ダリスが呆れたように言っている。
しかしそれでも、ミノトはペルセから離れる気がないらしく、そのままの体勢で、ラウラの方へ視線を向けた。
「おはようございます!ラウラ先生!」
「はい、おはようございます、ミノトさん」
「…おはようございます」
「ダリスさんも、おはようございます」
二人はラウラに挨拶をする。ラウラも二人の様子を見て、苦笑いをすることしかできないようで、挨拶を返す以上のことはしなかった。
「ミノト」
「何?」
「…ありがとう」
自然と、ペルセの口から出た。
脈絡も何もあったものではない。そもそも意図して言った言葉ですらない。
なぜ、この言葉が出たのか。ペルセにも分からない。ミノトも当然分からないようで、首を傾げながら、ペルセの顔を見ている。
暑さの残る、穏やかな風がペルセの頬を撫でる。ペルセやミノト、ラウラの髪の毛、ダリスの体毛が、風に揺られていた。
「…行こっか。教室に」
「うん!!」
風にかき消されそうなほどの、小さな声。だが、そんなペルセの声でも、密着しているミノトの耳には届いたらしい。
ミノトはハグを解消し、ペルセと手を繋ぐ。
「じゃあラウラ先生!また後で!!」
「えぇ、いってらっしゃい」
ミノトは明るくラウラに言うと、ペルセを連れて、そのまま軽い足取りで校内へと向かった。
これから、楽しいことも辛いこともあるかもしれない。しかし、ミノトやダリス、ラウラやヴァーレアといったエストラの仲間達や、イアノやバルディのような魔界の知り合いもいる。
どんなことも乗り越えられそうな気がする。ペルセはミノトに引っ張られながらも、嬉しそうに笑っていた。
ーーーペルセの楽しい留学生生活は、これから始まる。




