エストラからの帰路
ーーー数十分後、エストラからの帰り道。
ペルセはダリスと、意識を取り戻したミノトと共に、家路についていた。
「ペルセちゃんって、あの人と、バルディ先生とどういう関係なの?」
「…それ、そんなに気になるの?」
「当たり前じゃん!!」
ミノトは鼻息荒く、そう言ってきた。
そんなこと言われても、特別な関係ではない。イアノであればまだ、いつも構ってくれる優しいお姉さん、と答えられるが、バルディは本当にたまにしか会わない知り合いだ。
「どういう関係って言われても、たまに会う知り合いってだけだよ?」
「だから!!そこを詳しく聞きたいの!!」
「えぇ…」
素直に答えたのに、ミノトは納得していない。だが、ペルセとしてもこれ以上何もいうことはできない。
ーーーどうしろと言うのか。ペルセは困ってしまった。
「お前、まだ懲りてねぇのか。いい加減にしろよ」
「ダリスは気にならないの!?明らかにただの知り合いに向ける態度じゃなかったじゃん!!」
「…まぁ、気にならねぇわけでもねぇけどよ」
隣にいるダリスが、ため息をつきながら頭を掻いた。
バルディの態度は、変なものではなかったはずだ。少なくとも、会った時にいつも自分に向けてくるものだ。未だにあのような扱いをされることには慣れないが、たまにしか会わないため、特に意識もしてなかった。
「だって、普通の知り合いに『様』なんてつける!?」
「…あー…」
そこか。
そこが引っかかったのか。
ペルセとしてもむず痒いので、やめてくれとずっと言っている。大の男にそう呼ばれる、しかも初対面の時は呼び捨てだった相手から呼ばれるのはあまりにくすぐったいのだ。
「ペルセちゃんって…実は魔界のお嬢様だったり!?」
「えっ!?」
ミノトにそんなことを言われ、思わずドキッとしてしまった。
強ち間違っていないから困ってしまう。ペルセも、両親の魔界での立ち位置を理解できないほど子供ではない。
だが、それをひけらかしてどうこうする、というつもりは全くない。どうしたものだろうか。
ペルセが言い淀んでいると、ダリスが呆れ顔で、ミノトの後頭部にチョップを落とした。
「いだぁ!!」
「本人が知り合いだと言ってんだ、それ以上ねぇだろうが」
先程教室でやった平手打ちより威力が強かったらしく、ミノトは涙目でダリスを睨んでいる。だが、ダリスに反省の色はない。
「カッコいい俳優とかに目がねぇとは昔っから分かってたことだが…ああも熱狂するとはな」
「私だって女子なんだよ!?あんなスマートな人を生で見たらそりゃ興奮するよ!」
「あーはいはい」
熱弁するミノトを、ダリスは特に真面目に受け取る様子もない。ミノトは怒っているが、それを第三者視点で見ていたペルセは、少し笑ってしまった。
大人同士の腐れ縁でのやり取りならば、マールとハイーラや、ラウラとヴァーレアで何回か見ている。だが、子供同士で、しかも異性でこんな距離感の近い関係の応酬は、本当に見ていて心地良い。
ーーー留学生として、エストラに戻ってこれた。そう実感するのには十分だった。
「…二人って、本当に仲良しだよね」
何気なくそんなことを呟くと、ミノトとダリスは互いの顔を見つめる。だが、その表情は微妙なものだった。
「…仲が良いってか…前も言ったことあるかもしれないが、ただ付き合いが長いだけだ」
「ホントに、幼稚園の頃…いやもっと前から知ってるからねー」
「そうなると…ギリ十年いかないぐらいか?」
ーーー幼稚園よりもっと前。ペルセは悪魔なので、人間であるミノトや、獣人であるダリスとの単純な比較はできない。しかし、自分がダスノムから出てきてから十年の間で、様々な出来事の末に自分の生活環境が激変したことを考えると、決して短くないことだけは分かった。
「まぁ、ウチの両親としても、お前の親が側にいたし、有難かったと思うぞ。肉食獣の獣人って、未だに割と怖がられるところあるし」
「そう?ダリスのお父さんもお母さんも、普通にいい人じゃん。仕事で忙しそうにはしてるけど」
「…それをナチュラルに言えるお前が羨ましいわ」
「え?」
ミノトは困惑していたが、ペルセもダリスと同感だった。
散々、アンドレイスを含めた悪魔達、レボルタやソロモニアの面々から、種族や出自を理由に見下されてきたペルセからすると、ミノトのようなことを言ってくれる存在は非常にありがたい。
ーーーもしあの時、マールより先に出会っていたなら、ミノトの家に転がり込んでいたかもしれない。そう思うほどだった。
「…どうしたんだろう…?」
首をかしげるミノトと、それを見ながら小さく笑うダリス。その二人とともに、ペルセも帰路を歩いていくのだった。




