静かな帰還
「あらあら…これは予想以上ですわ」
「姉様また何かイタズラしたでしょ!?」
「失礼ですわね。何もしてませんわよ…『私は』」
「その言い方、絶対間接的に何かしたやつ!!」
そんな阿鼻叫喚な状況となった教室に、イアノが入ってきた。その後ろには、教室の様子を見に来たのか、ラウラの肉体を借りた状態のヴァーレアがいる。
楽しそうに笑うイアノとは対照的に、ヴァーレアはワタワタしている。冷静沈着な性格のラウラの体でやっているため、ギャップが非常に激しい。
「…私も特に、何もしていないのですが」
「バルディ。先程も申し上げました通り、異性からどのような視線を向けられるのかを、少しは自覚した方がよろしいか、と」
イアノはバルディに向け、小さく笑いながらそう言った。
ーーーイアノの言っていることは、ペルセにはよく分からない。異性から向けられる視線など、ペルセは欠片も考えたことがなかった。
だが、それが関係しているのか。ミノト達がバルディに向けてた視線に、要因があるのだろうか。
「…姉様。何したの?」
「何もしてませんわよ?バルディに、ペルセちゃんと軽くお話してきては?と送り出しただけですの」
イアノはヴァーレアの問いに、あっけらかんと答える。
ペルセとしても、イアノが何か企んでるという疑いは正直払拭できていなかった。廊下からこちらを楽しそうに見ていたときの笑みは、間違いなく何かイタズラを仕掛けてる時のものだった。
「…あまりイアノを責め立てないでやってください。イアノの言う通り、私がペルセ様とのお話を希望し、そのついでに挨拶をした、と言うだけに過ぎませんよ」
バルディはダリスと共に、倒れた女子達を介抱している。その言葉は、完全に自責の方向を向いていた。
バルディ本人がそう言ってるのなら、そうだろう。どこまでも嘘をつかない男であるので、ペルセはそれで納得した。
ヴァーレアだけは少し納得していなさそうであったが、イアノがあまりに堂々としてるものだからか、何も言えなくなってしまったようだ。
「お手数おかけしてすみませんね」
「いえ…。そもそもうちの女子達のせいですし」
バルディから礼を言われたダリスは、呆れ半分、緊張半分で答えてるようだ。思えば、バルディと初めて会った時のペルセも、かなり緊張していたような記憶がある。
「…面食いな奴らが多いとは思ってましたが…」
「面食い?…私の顔など、よくある顔ですが」
ダリスの独り言に、バルディは不思議そうにしている。ペルセはバルディの顔を改めて観察してみた。
確かに、整った顔立ちだとは思う。自分の父親であるクロニオスと比べても、いかつい感じは全くない。だが、あんなに大騒ぎするほどか、と問われたら、やっぱり否だ。
「…まあ…ウチの子達が好きそうな顔ではあるよ。ませてるからね、このクラスの女子は」
「そういうものですか?」
「少しは自覚してください…」
ヴァーレアでさえ、少し呆れている。だが、当のバルディは最後まで不思議そうに首をひねるだけだった。
「…さて、そろそろお暇させていただきましょうか。お騒がせしました。ペルセ様、明日以降授業で会ったらよろしくお願いしますね」
「うん!お母さん達との鍛錬の成果、見せますから!!」
「ふふ、楽しみにしておきますよ」
バルディはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。その言葉に、ペルセはガッツポーズをとった。
思えば、イアノは鍛錬に関わっているので自分の実力を知ってるが、バルディはノータッチだ。アモディエナを通じて知ってるかもしれないが、直接見せたことはない。自然と、気合が入った。
「では、失礼します」
バルディは軽く一礼すると、そのまま教室から出ていくのだった。




