バルディの教室訪問
バルディが教室へ入ってくる。ペルセはその様子を、不思議そうに見つめていた。
何か用だろうか。だが、隣に茶目っ気たっぷりに笑ってるイアノがいる。あの表情をしている時のイアノは、大概自分が楽しむために何か企んでる時の表情だ。
とはいえ、ペルセが知る限り、びっくり箱を仕掛けられる程度の平和なものであり、迷惑を被ったことは一度もない。
(…イアノお姉ちゃん、また何か仕掛けてくるのかな…?)
ペルセはそんなことを考えながら、近寄ってくるバルディを見つめていた。
「え、え…!?ちょ、え…!?」
「うそ、こっち来てるんだけど…!?」
ミノトを含めた周りの女子達は、バルディの姿を真近で見てざわめついている。あれほど騒いでいたと言うのに、本人が来た時に静かになるのは、どういうことなのか。
だが、当のバルディは特に気にしてない様子で、ペルセの前に着くと、膝をついて視線を合わせてきた。
「お久しぶりです、ペルセ様」
「前から様付けはやめてって言ってるじゃないですか、バルディさん…」
バルディは穏やかに、しかしペルセを真っ直ぐに見ながら挨拶してきた。だがどうにも、そう呼ばれるのはむず痒い。
もちろん、バルディ側の事情も分かる。ペルセの両親は言わずもがな、クロニオスとデメナだ。バルディの上司にあたるアモディエナに匹敵するか、それ以上の立場にあたる悪魔だ。
アモディエナならいざ知らず、その配下であるバルディが、ペルセを呼び捨てにしてしまうのは、礼儀としても問題がある。それ自体は、理解できる。
ーーーとはいえ、それを踏まえても、様付けされることには慣れない。特にバルディの場合、初めて会った時は敬称無しで呼んできたこともあって、尚更だった。
「しかし、ご両親の立場まで含めて考えると…」
「イアノお姉ちゃんはどうなるんですか?」
バルディはペルセにそう言われ、イアノの方を見つめる。イアノは相変わらず廊下でニコニコしながら立っているだけだ。
バルディと似たような立場であるイアノは、自分のことをちゃん付けで呼んでくれるし、ちゃんと子供としてお世話してくれる。少なくとも、ビジネスライクな付き合いではない。
そこを突っ込むと、バルディは困ったように頭を掻いた。
「…イアノの場合は、デメナ様から直々に『普通の子供として接してあげて』という通達があったと聞いています」
「そうなんですか?」
ペルセはイアノの方を見る。イアノは顎に手を当てながら、目を細めてこちらを見ており、会話を聞いている。
ーーー無言の肯定。少なくともペルセは、そう受け取った。扉も開けているので、会話が全く聞こえてないわけではないはずだ。その状況で、否定の素振りを全く見せていない。
「それはそうと…。先程から様子、見ていましたよ」
「あ、やっぱり見てたんですか?どうせだったら助けてほしかったんですけど…」
「…それに関する文句は…何とも。外から様子は見ておりましたが、会話の詳細な内容までは私達も聞いておりませんでしたし」
バルディはそう言うと、困ったように笑っている。外から様子をうかがってたなら、正確な中身は分からなくとも、少なくとも騒ぎになってることには気付いただろうに。ペルセは不満げに頬を膨らませていた。
「ただ、私に関する話題が上がってた事は認識していましたよ」
「…そこ分かってたんなら、尚更助けて欲しかったです…」
「…申し訳ない」
「いや別に怒ってませんよ!?」
バルディが軽く頭を下げたものだから、ペルセは慌てて否定した。本当に、怒る気はない。少しワガママ言っただけのつもりだったのに、思いの外真面目に受け取られてしまい、逆に戸惑った。
「さて…」
バルディはそう言うと、自身の周りを見渡す。ミノト含め、近くにいる女子達は、今にも倒れそうな呼吸をしている。というか、呼吸が止まっているように見えるクラスメイトまでいる。
ーーー大丈夫なのだろうか。少し心配しながら、その様子をうかがった。




