イアノの悪戯心
「あらあら…あの子、やっとこちらに気付きましたわね」
イアノはこちらを見て固まったミノトを見て、楽しそうに静かに笑っている。その隣では、バルディが静かに呆れていた。
打ち合わせの前に、ペルセの様子を少しでも見ておこうと、渋るバルディを少し強引に連れてきたのだが、来た甲斐があったというものだ。
とはいえ、特に何かを積極的に言うわけでもない。先程から何も言わずに様子を伺っているだけだと言うのに、廊下を見た生徒たちが、こちらを見て固まっている。廊下に出てきた生徒に帰りの挨拶をしているだけだ。
だというのに、子供達が狼狽えてる姿を見るのは、可愛げもあり、面白くもあった。
「全く…あなたもいい性格をしているものですよ」
「うふふ…何のことでしょう?」
「…まぁ、いい」
仕える相手こそ異なるが、コンビを組むことが少なくなかった相手だ。そんなバルディのことは、イアノもよく分かっているつもりだ。
表情からは見えない微かな揺らぎで、呆れこそあるが怒っているわけではないことなど、魂魄を見ずとも容易く分かる。
「ミノト、でしたっけ?あの子、金魚みたいに口をパクパクさせてますわ」
「私に聞きたいことが山ほどあるようでしたね。そんなこと気にして、どうするんでしょうか」
「…あなたはもう少し、ご自身が異性からどのように見えてるのかを、ご自覚なさった方が良いか、と」
イアノは、バルディの弱点も明確に知っていた。
実務では最強だ。非常に危険を伴うことが多い災害調査を主体としてる部署を取りまとめてる、というだけあり、アモディエナの配下の中でも、指折りの実力者だと言える。
だが、その分仕事以外での気遣い、例えば異性への態度等で難が見られる。実際、イアノ自身が泣き崩れたところを見られた時も、気遣いなのは分かっているが、「顔を少し冷やされては?酷い顔をしてますよ」と面と向かって言われた。
ーーーあれは、十年ほど前。リドンの反乱が終わった後、リドンに尋問をした後だったか。その時のことを思い出すと、イアノは苦笑いしかできなかった。
「…せっかくですし、ペルセちゃんと少しお話されます?明日以降ですと、教師と生徒なので、気軽なお話は難しくなりますわよ」
「いいのですか?イアノも話されたいのでは」
「私は送迎等でちょくちょく話しておりますから」
とはいえ、わざわざここまで連れてきたのだ。知り合いではあっても、自分と比べてあまり話す機会が多くないバルディとペルセに、少し交流の機会を持たせてやろう。
ーーー何より、それをやったら、常に無機質な表情しかしないバルディの優しい一面を見せられる。イアノはそう考えていた。
「…では、そのご厚意に甘えさせていただきましょうか。無碍にするのも申し訳ないので」
「お気になさらず〜。むしろ、そのために連れてきたまでありますから」
バルディはイアノへ軽く会釈をした。そして、教室の扉に手をかけ、ゆっくりと開いたのだった。




