始業式の余韻
「…特別講師が、二人も…」
「しかも一人は、小学部に来るんだってよ!?」
「あんなイケメン来てくれるなら、私頑張っちゃう!!」
「うわ、現金なやつ…」
始業式を終え、帰りのホームルームまで済ませた後の五年三組の教室は、まだ始業式の余韻に浸っていた。
バルディとイアノ。ペルセからしたら見知った顔ではあるし、事前に来ることを知らされていたから然程動揺はなかった。だが、やはり小学部の生徒達からしたら、相当衝撃だったのかもしれない。
「あのバルディ先生って人、凄くカッコよかった…」
「お前、今日ずっと言ってるよな」
それはミノトも例外ではないらしく、若干頬を赤らめていた。そんなミノトを見て、ダリスも呆れたようにため息をついている。
ダリスの様子からすると、ミノトの反応は初見でもないらしい。ただ呆れているだけで、あまり驚いている様子がない。
面食い、というやつなのか。始業式の際にもバルディを見て、見惚れてるようにしか見えない女子も少なからずいた。全員ではないにしても、人間界の女子は、そういうものなのだろうか。
ーーーペルセは帰る準備をしながら、そんな様子を眺めていた。
「ペルセちゃぁん、あの二人…特にバルディさんとは知り合いなの?」
「…へ?」
ミノトからそんなことを聞かれ、ペルセは思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「…まぁ…知り合いといえば知り合いだけど」
しかし、特に隠す理由もない。ペルセは素直に答えた。
すると、ミノトを含めた周りの女子達が、勢いよくこっちを向いた。
ーーー何だろう。変なことでも言っただろうか。
戸惑っていると、のしのしと複数の女子が近寄ってきて、ペルセの肩を掴んできた。その細い腕からは想像もつかない力だ。
「あのカッコいい先生と知り合いなんだよね!?」
「え?…うん、バルディさんとは知り合いだけど…。何?皆、ちょっと怖いよ…?」
「羨ましい!!」
ペルセが答えると、女子達は四つん這いになったり、壁に拳を打ち付けたりしている。そんなに悔しかったのか。ペルセは不思議に思いながら、そんな様子を眺めることしかできなかった。
「ペルセちゃん…」
すると、そんな女子達の隣で、今度はミノトがゆらりと立ち上がった。
ーーー何だろう。ペルセの知るミノトなら、逃げ出そうなんて思うはずもない。だが、今のミノトからは、直感的に逃げ出したいような、そんな雰囲気を感じ取った。
だが、ここは教室。しかも窓際の席であるため、後退りも難しい。ペルセはすぐに追い込まれてしまった。
ミノトはそんなペルセにあっという間に追い付くと、ペルセの肩を掴んできた。
「あの人とは、どういうキッカケで知り合ったの!?普段何してる!?どんな人なの!?あと…」
「やめんかバカタレ」
「いだぁっ!?」
質問攻めにしてこようとしたミノトの後頭部に、ダリスの平手打ちがクリーンヒットした。姿勢を崩したミノトは、ぶたれた箇所を抑えながら、ダリスを睨んでいる。だが、ダリスはそんなミノトに対し、大きくため息を吐いた。
「…こうだと思うと突っ走るのは、お前の悪い癖だぞ。しかもペルセは今日来たばかりの留学生だぞ。あんないきなり迫るヤツがいるか」
ダリスは他の女子たちにも聞こえるように、そう言った。女子達は言い返せないらしく、気まずそうに顔をそらしながら、すごすごと引き下がっていく。
ーーー本当に、同い年なのか。狼の獣人ゆえ、周りの男子達より体格がいいこともあり、ダリスだけやけに大人びて見えてしまった。
「…ん?」
ペルセの感知能力に、引っかかるものがあった。
見知った者の魂魄が、近くにいる。ペルセはそれを敏感に感じ取り、廊下の方へと目を向けた。
ーーーいた。見慣れた顔が、二つ。教室の外に並んで、こちらを穏やかに見つめていた。
「…だってぇ…」
ミノトは不満げに呟いた。後ろの存在には気づいていないらしい。背後で、すごすごと帰ろうとした女子達が、完全にフリーズしてしまってることも。
先程の仕返しだ。優しく教えてやらなければなるまい。ペルセは平静を保ちながら、優しくミノトに語りかけることにした。
「ミノト。バルディさんのこと知りたいなら…私に聞くより…」
ペルセはそう言いながら、廊下の方を指差すことで、ミノトの視線を後ろへと誘導する。ミノトはその誘導に釣られ、廊下を見てーーー固まった。
「…本人達に聞くのが、手っ取り早いよ?」
そこには、先ほどの始業式で紹介された特別講師のバルディとイアノが、並んで立っていた。




