留学再開通知
サトゥニアの町の、クロニオスの家。
その家の中で、家族が食事をしていた。
「…え?」
ペルセは思わず、驚きのあまり、箸でつまんでいた豆を落としてしまったことにも気付かず、父クロニオスの顔を見つめていた。
なんと言ったのか。処理が追い付かず、ペルセはフリーズしていた。だが、クロニオスは肩を震わせ、クックッと笑っている。
「お前の留学が再開することが決定したのと同時に、魔界からの特別講師の派遣が決まったんだ」
「いや、うん、それは…嬉しいんだけど。お父さん、その後、何て言った!?」
留学再開の決定。それ自体は、すごく嬉しかった。だが、その後に続いた言葉が気になりすぎて、喜びよりも困惑が先に来てしまった。
「俺も詳しくは聞いてねぇけど…イアノとバルディが派遣されると聞いたな」
「…聞き間違いじゃなかったんだ…」
ペルセは動けずにいた。
イアノについてはよく知っている。いつもアスティアノとサトゥニアの間の送迎役をやってくれるし、両親が不在の時にはよくお世話になっている、気心知れた姉のような存在。
バルディについては、そこまで面識があるわけではないが、いつもバシッとスマートに決めており、仕事ができる男、という印象だった。
ーーーそんな二人が、特別講師。信じ難かったが、クロニオスが言っているのなら本当のことだろう。
「良かったな、ペルセ。人間界にまた行けるぞ」
「…うん!」
とはいえ、人間界にまた行ける、エストラでミノト達にまた会えると思うと、やっぱり嬉しかった。
自然と、頬も緩んでいた。
「よかったですね、ペルセさん」
「お母さん…」
「細かい日程などは、まだこれからですがね…」
クロニオス用の追加の料理を持ってきたデメナが、優しく声をかけてくる。
確かに、日程決めや準備もあるため、今すぐ行けるわけではないのは分かっていた。だが、数ヶ月したらまた行ける、という希望が持てたのは大きかった。
「ああそれと、イアノさんも人間界に行くことが決まりましたからね。特別講師として、ですが」
「それさっきお父さんも言ってた!…何がどうなってそうなったの!?」
「どう、と言われても…」
自分の留学再開については納得できる。しかし、イアノたちの派遣については、納得がいかないとかではないが、経緯がいまいち分からない。
デメナはペルセの反応に、少し困ったような笑顔を浮かべていた。
「エストラの学長さんから、魔王様に提案があったそうですよ。それに、魔王様が乗っかって。私もアモディエナさんも、面白そうだと思ったので乗っかりました」
「面白そうだからって…」
クスクス笑いながら話すデメナに、ペルセは戸惑いを隠せなかった。
そんなふざけた理由で、派遣するというのか。ペルセには政が分からないが、それだけで納得するには弱かった。
すると、クロニオスが口を挟んできた。
「真面目な話をするとな、これで悪魔が人間界で働ける、って前例ができるだろ?」
「え?…あー、まあ…」
「今回は留学や臨時派遣という形ではあるが、『未知の場所、人間界に行く』ことへのハードルが、今回の交流事業でさらに下げられる、ってのがサトゥニアの考えだ」
「…考えてるね、ちゃんと」
「かつてのダスノムと、同じようにな」
クロニオスからそう言われ、ペルセも納得した。
確かに、留学という形で毎回行くのも面倒だ。緊急事態でなくても、人間界に気軽に行けるようになるためには、誰かが行って安定していた、という情報が欲しいのだろう。
ペルセの育った場所でもあったダスノムの扱いについてもそうだ。スラムに大幅に手を加え、工業都市化を果たした上で、「未知の場所」ではなくさせたことで、今では魔界屈指の工業都市になり、ダスノムへ行くことへのハードルはかなり下げられていた。
「俺も後から話を聞いたが、そういうわけでサトゥニアの野郎を止めるつもりは全くなかったよ」
「あなたが反対したら、さすがに魔王様も無視できませんしね…」
デメナは苦笑いしながら、食器の片付けをしていく。
ーーー人間界にまた行ける。その一点をかみしめながら、ペルセはご飯を食べるのだった。




