提案に対する打ち合わせ
全員の視線が、その資料へと注がれる。詳細な日程や、これから決定しなければならないことが、所狭しに書かれている。
「サトゥニア陛下に提案させていただいたのですが、実は我が校で、魔界の方々にも特別講義をしていただきたいと考えていまして」
その言葉で、イアノはデメナの反応を思い出す。非常に楽しそうな様子で、「悪魔に特別講義をお願いするなんて、なかなか物凄いことを考えられてますよ」と言っていたのだ。
だが、考えてみれば突拍子もない提案でもない。エストラは、自分の妹であるヴァーレアも一介の講師として取り扱っていると聞いている。
ーーーそういう意味では、確かにエストラという学校の学長だからこそ出てきた、とんでもない提案なのだろう。
「詳細な講義日程や内容について、この打ち合わせである程度決定できればとは思っています」
「…私は他人にものを教えられるような悪魔ではないのですが」
バルディは少し不満そうにそう呟く。
確かに、ヴァーレアのように明るく子供と接してるイメージはない。
だが、イアノはバルディこそ、このような事業で前に出るべき男だと思っていた。
「バルディさん。ここは魔術師育成学校ですわ。魔力の扱い方を教える学校ですのよ」
「それは知っている。それがどうしたのだ」
「…アモディエナ様を除くと、私はあなた以上に基礎に忠実な方を知りません」
バルディはイアノにそう言われ、黙り込んだ。
自分の場合、デメナの元で技巧部分のみを徹底的に鍛えた結果、最終的に魂魄へ干渉する、という技巧の極致にまで達している。
だが、アモディエナやその配下であるバルディは全く違う。特別な才能がないながらも、基礎を教科書通りに積み上げ続けた結果、まさに「スタンダードの極致」とでも言うべき実力を身につけている。
ーーーバルディの実力は、異彩な能力を持つ自分と総合力で張り合うには十分だった。少なくとも、イアノはそう認識していたし、恐らくアモディエナから声がかかったのもそれが理由だろう。
「…そうなると…バルディさんは、小学部で講義をしてもらうほうが良いかもですね」
「小学部、ですか?」
「えぇ。基礎を究めた方であれば、まだ基礎が未熟な、小学部の子供達への授業が良いかと」
学長の提案に、イアノは頷いた。
バルディは、教科書通りのスタイルを究めた極致。であれば、まだ教科書通りのやり方がままならない小学生を相手にするのは、合理的だろう。
「…分かりました。やるからには、手は抜かないようにいきますので」
「よろしくお願いします」
バルディはずっと淡々としている。下手すると、ヴァーレアの契約主であるラウラよりも感情の起伏がない。
「イアノさんについては…」
「姉様が教えるとするなら、間違いなく高等部だと思いますよ?」
続けて学長が何か言う前に、ヴァーレアが口を挟んだ。とはいえ、イアノもそこに反論はなかった。
「なぜでしょう?小学生の子供にもウケそうですが」
「だって姉様は、妹のボクから見ても魔力操作の精度が異常ですからね」
「異常…ヴァーレア先生がそこまで言うとは…」
異常と言われるのは不本意だが、自分の魔力操作の精度が高いことは否定できない。むしろ、そこを極めたのがデメナの能力なのだから。
「さすがに人間界の学生相手に、魂魄干渉の理屈などは行いませんわよ」
「当たり前だよ!?アレ、ボクでも原理理解が難しかったし、実践までできてるのは姉様とデメナ様しかいないじゃん!!」
先に言われそうなことを潰しただけなのに、ヴァーレアは焦ったように叫んだ。
ーーーそこまで言われなければならないことなのだろうか。隣に座るバルディも、呆れた様子でこちらを見ていた。
「…えーと…とりあえず、イアノさんには、高等部を魔力の精密な応用技巧を教えていただく形でいきましょうか」
「姉様、オーソドックスなやつで頼むよ!?」
学長とヴァーレアの二人から、そう言われた。
ーーーそこまで念を押さなくともよいというのに。イアノは少し不服ながらも、ヴァーレアに対して小さく頷いた。




