大人組の、エストラ来校
数日後。日も高くなった時間帯のエストラの学長室に、二人の男女が来訪していた。
「姉様。ちょっと待っててね。すぐ学長が来るから」
「構いませんわ。別に間が持たないとか、沈黙が苦痛になるような相手でもありませんし」
ラウラの肉体を借りたヴァーレアが、案内役としてその二人に話しかける。学長が不在であることを詫びてきたが、黒いドレスの女性・イアノは特に気にも留めていなかった。
そして、その隣には銀髪オールバックの、スーツをバシッと決めた、いかにもビジネスマンといった風貌の、眼鏡の男が座っている。
「お気になさらず。まだ時間には余裕があります。カリカリしても仕方ありませんので」
「バルディさん…!!」
ヴァーレアはバルディを見つめ、キラキラした目を向けている。
魔界災害調査管理部部長のバルディ。政府中枢内でも重宝される、アモディエナの有能な配下の一人だ。バルディは特にヴァーレアの視線を気にする様子もなく、静かに読書を始めていた。
イアノ自身、デメナを通じて今回の提案を聞いた時は、耳を疑った。だが、自分と共にバルディも選定されたと聞いて、妙な安心感を覚えた。
「姉様…念のための確認だけど、バルディさんは今回の依頼の中身、分かってるんだよね?」
「…バルディさんを何だと思ってますの?アモディエナ様が部の統括を任せるほどの方ですのよ?」
「うん…分かってるよ」
ヴァーレアが資料を見ながら、少し不安そうに聞いてくる。しかし、イアノからしたらそんな問いは馬鹿げてるものだった。
アモディエナと部署の者と仕事をすることは多いのだが、バルディとも例外ではない。むしろ、アモディエナ直属の配下として、デメナ唯一の直属の配下である自分と肩を並べる機会も少なくない。
そんなバルディなのだ。バルディである、というだけでイアノは信頼していた。
「…姉様、ホントに信頼してるんだね」
「バルディさんですからね。実務において、私が手放しで信頼できる数少ない方の一人ですわ」
イアノの言葉に、バルディは特に反応しない。だが、しっかり聞こえてはいるようで、わずかに肩が動いている。
この程度で感情を乱すような悪魔ではないが、これ以上話題に挙げて褒め殺しにするのはやめておこう。
そう思っていると、学長室の扉が開いた。そちらへ視線を向けると、慌てた様子の学長がいた。
「すみません!遅くなってしまいました!!」
「問題ありませんよ。むしろ定刻通り。我々が早く来てしまっただけですから」
余程慌ててきたのだろう。学長は息を切らしながら平謝りをしてきた。
そんな学長に、バルディは本に栞を挟みながら淡々と返した。時計を見ると、確かに集合時間ギリギリではあったが、遅刻と言うほどではない。
「本来ならば私がおもてなしなどをするところでしたのに、申し訳ない…」
「問題ありませんわ。ヴァーレアがやってくれましたから」
話に興じててあまり手を付けていないが、机の上にはすでに、ヴァーレアが準備していたお茶と簡単な茶菓子が置いてある。
学長はそれを見て安堵したようで、ホッと一息ついた。
「それはよかった…。ヴァーレア先生、こちらに」
「分かりました」
学長が二人と向かい合わせるように、ソファへと座る。ヴァーレアもイアノの隣から学長の隣へと移動し、腰掛けた。
イアノにとって、ヴァーレアは身内だ。だが、業務モードのヴァーレアと向き合うのは初めてで、少し緊張していた。
「では…改めまして、エストラの学長です」
「バルディと申します」
「イアノですわ。ヴァーレアの姉ですの」
「ボクは…いいよね?」
それぞれが挨拶を交わす。ヴァーレアは気まずそうに頬をかきながら、その様子を眺めていた。
「さて…それでは、打ち合わせを始めましょうか」
学長はそう言うと、資料を差し出してきた。




