ドゥローラ側の末路
学長室の扉も、何も変わっていない。高そうな木材を使った扉だ。ラウラはその扉を、静かにノックした。
「…どなたでしょうか?」
「お久しぶりです。ラウラです」
「ラウラ先生…」
そういった瞬間、扉の向こうで作業音が止んだ。紙のこすれる音も聞こえなくなり、一瞬の静寂が訪れた。
だが、ラウラはそのまま、淡々と言葉を紡いだ。
「ご報告に伺いました」
「…入りなさい」
「失礼します」
許可をもらったので、ラウラは扉を開いた。中にいる学長は、奥にある作業机で書類とを整理していたらしく、机の上には書類が何枚か広げられている。
学長はラウラを見て、安堵したような表情を浮かべている。二ヶ月ぶりに生存確認ができて、安心したのだろう。
ーーー思えば、最初にソロモニアが動いていることを通達されたのも、この場所だった。それゆえ、それがようやく解決したというのも大きな理由かもしれないが。
「そこに座ってください。立ったままというのも疲れるでしょう」
「失礼します」
ラウラはそう言われ、学長室のソファへと腰掛ける。職員室の椅子と比べて、座り心地がいい。
そんなどうでもいいことを考えていると、学長もすぐに、ラウラに向かい合うように座った。
「…学長…」
「まず、改めて…ラウラ先生、お疲れ様でした。そして、よく無事で帰ってきてくれました」
学長はラウラが何か言う前に、言葉を発した。そして、静かに頭を下げてきた。
「事件の中身については、ある程度ヨルゼフ国王陛下からも伺っております。…大変だったでしょう」
「えぇ…。ですが、過ぎた話です」
「…それで済ませて良い話ではないのですよ」
ラウラは本心を語っただけなのだが、学長は苦笑いした。
確かに大変な話ではあったし、様々な方面に迷惑をかけてしまった事件ではある。だが、それを引きずる気は毛頭なかった。
「ソロモニアが、ドゥローラという国がどうなったのかはご存知で?」
「えぇ。壊滅してしまったというお話は伺っています」
「簡潔に言うと、そうですね」
魔界からも、話は聞いていた。
ヨルゼフ国王が、最終的に国際司法裁判にまで持ちかけ、レボルタ国王とソロモニアという組織が、丸ごと罰せられた、と。どのような刑罰になったかまでは細かくは知るつもりもないが、「人間の一生を余裕で超すほどの懲役」だと聞いている。
「私も記事を見ただけに過ぎませんが、レボルタ国王もソロモニアの連中も、もうエスカン国内にすらいない、と。他国の凶悪犯も収監するような、大規模な監獄に収監されたとのことです」
「そうですか」
学長は少し言いにくそうだ。恐らくドゥローラやエスカンからも遠く離れたどこぞの大監獄にでも収監されたのだろう。凶悪犯と共に牢獄生活を強いられるレボルタやソロモニアの連中を思い浮かべると、末路としては当然だと思ってしまう。
「ドゥローラという国は、地図上からも消えた国となりました。土地は残っていますので、現状はエスカンを含めた周辺国で分割して統治、という形になるとまことしやかに囁かれています」
「なるほど…」
その形が現実的であろう。エルフィーの話では、放棄されて完全に見限られたゴーストタウンだ。どこか他の一国に全て任せるのも現実的ではないだろう。
「確かにそのような状況ならば、魔界の方々が私を帰還させても問題ないと判断するには、十分だったのでしょうね」
「…ラウラ先生、本当に冷静ですよね」
「他人の不幸を喜ぶ趣味はありませんので。因果応報だとは思いますけどね」
ラウラの感情は、本当にそれだけだった。
ソロモニアもレボルタも、己の行いが原因で、報いを受けただけ。それに対して、特に喜怒哀楽はない。
因果応報。その四文字だけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「…まぁ良いでしょう。次に、仕事についてですが」
学長は少し黙りこくった後、次の話題に移った。ラウラもそれを特に止める気はなく、そのまま学長の話を聞いていた。




