ラウラの復職
翌日。人間界、エスカン王国内にある魔術師学校、エストラにて。
ラウラは約二ヶ月ぶりに、エストラ校内の職員室へと足を踏み入れる。
ーーー変わっていない。何一つ。
積み上がる書類の山、フル稼働している魔力端末、そして走り回る講師達の姿。
「変わってないねー」
ラウラが言葉を発するよりも先に、精神世界にいるヴァーレアが、ラウラの頭の中に聞こえるように呟いた。ラウラ同様、ヴァーレアもこの光景を懐かしんでるようだ。
「おはようございます」
入り口で淡々と挨拶をする。その瞬間、職員室内にいる講師たちの視線が、一斉にこちらへ向いた。
唖然としている者、まるで幽霊でも見たかのように驚いてる者、そして笑顔を浮かべている者、色々な反応が返ってくるのだった。
皆が動きを止めてる中、唯一動いた講師がいた。
いつもの橙黄色の魔女っ娘衣装に身を包んだ、丸眼鏡をかけた小柄なエルフ。その講師は、ラウラの肩を軽く叩いてきた。
「お帰り!ラウラ先生!!」
「エルフィー先生…」
「やっと帰ってきたとね!ホント、戻ってこれて良かったばい!」
エルフィーは子供のような笑みを向けてくる。この二ヶ月、電話越しで話をすることはあったが、対面で話をするのは久し振りだった。
「積もる話もあるばってん…まず、学長に報告した方がよかやろ。ウチらは今日帰ってくるとは聞いとらんかったけど、学長には共有したっちゃろ?」
「しましたよ」
「ほんなら、荷物置いたら学長室やね」
「えぇ」
ラウラはそう言うと、エルフィーと共に自分のデスクへと向かう。
二ヶ月間出勤できなかったにも関わらず、掃除が行き届いている。しかしながら、二ヶ月の間で発行された書類等が積み上がってるようで、少し気が滅入りそうだった。
「はぁ…面倒ですね」
「仕方ないよ、ランちゃん。現実問題、二ヶ月もランちゃんの仕事が完全に止まっちゃってたし」
「そうですね…」
ラウラはため息をつきながら、椅子に腰かける。ヴァーレアが諭してきていたが、それも軽く流しつつ、荷物を机の横へ置き、端末へ魔力を流し込んで起動させた。
「しばらくは職員室に缶詰ですかね…」
「まぁ、さすがに授業とかはまだ無理やろな。しょんなかことばい」
「分かってます」
ラウラはそう言いながら、手早くメールを確認していく。二ヶ月も経っていたため、かなりの量溜まっている。
営業メールも含まれているので、全てを処理する必要はないかもしれないが、それでも数日はかかるだろう。講義や研究業務もやりたいのだが、しばらくは難しそうだ。
「ランちゃん。学長室行かないの?」
ヴァーレアが卓上の鏡の中に姿を現す。魔界には鏡があまりなかったので、この感覚も久しぶりだった。
「行きますよ。もちろんね」
「行ってら〜」
ラウラが立ち上がると、エルフィーがあまりにも軽いトーンで、手を振って送り出してくれた。
普段から軽い態度の多いエルフィーだが、今回ばかりはそれが非常にありがたい。
ラウラは適当に手を振り返しながら、学長室へと向かったのだった。




