変わらぬ日常のやり取り
「…ホントに、挨拶だけだったわね。挨拶と呼んでいいのか怪しかったけど」
呆然としているペルセの隣に、いつの間にかハイーラが立っていた。その声で、ペルセの意識が現世に戻ってきた。
「まぁ…ラウラ先生は、いつもあんな感じだから」
「いつもああなの…?」
ペルセから見ると 、人間界にいた時と何ら変わらないラウラだった。感情の起伏が薄く、合理的な判断を重視する、いつもの気怠そう態度だった。
とはいえ、確かに挨拶というには微妙なものだった。それに、付き添っていたイアノの態度も、歯切れが悪かったような気もする。
「…私、人間界にもう一回行けるかな…」
「ペルセちゃん…」
イアノは断言しなかった。だが少なくとも、人間界との交流については否定していなかった。むしろ、再開する予定だ、とも言っていた。その言葉が、ペルセの頭の中で反芻された。
「行けるんじゃな〜い?」
すると、ソファーでぐうたらしていたマールが、こちらを見向きもせずに口を挟んできた。ちゃんと聞き耳を立ててたあたりは、マールも気になってはいたのだろう。面倒くさがって、動かなかったのかもしれないが。
「ちょっとマール、そんな無責任な…!!」
「まぁ、断言はできないけど〜…あの口ぶりからすると、交流の窓口は、閉じてはいなくな〜い?」
「そうかもしれないけど…!!」
のんびりとした口調ながらも、本質を突いてくるマール。ハイーラもマールの言葉を否定し切ることはできないらしく、焦りながらもどう返せばいいか困っているようだった。
「まぁ〜…私も分かんないけどね〜。でも、ペルセのご両親に聞いてみたら、分かるんじゃないかな〜?」
「お父さんと、お母さんに…?」
「それが確実だと思うよ〜」
マールはそれだけ言うと、大きな欠伸をした。先程から一ミリたりとも動いていないと言うのに、眠いのだろうか。
ハイーラも頭を掻きながら、ため息をついた。相変わらず、普段はマールを説き伏せられるハイーラも、こういった場面でのマールには敵わないらしい。
「全く…マールはホント、こういう時にだけ核心を突いてくるのよね…」
「アハハ…」
普段は面倒臭がりで、ズボラなマール。だが、その裏側で、自分が家族から拒否された過去を抱えながらも、相手が抱え、求めるものを絶対間違えない。ペルセも何回か、マールには泣かされたりしたものだ。
ハイーラはマールとの付き合いがペルセよりも圧倒的に長いゆえに、より強く実感しているようだ。
「聞こえてるからね〜、ハイーラ〜?」
「別に隠してないから、好きに聞いてればいいわ、その地獄耳」
「も〜」
陰口を言われてるように感じたのか、マールは少し不満げだった。だが、そんなマールにも慣れたもののようで、いつものことと言わんばかりに皮肉も込めて打ち返した。
ーーーやっぱり、この二人は仲が良い。ペルセには、このような腐れ縁とも言えるような、気軽に軽口を叩き合える同年代の友達はまだいない。
ミノトとそんな関係になれればいいな、と思いながら、ハイーラ達のやり取りを眺め続けていた。




