ラウラの挨拶
ここは、アスティアノにあるハイーラの家。ペルセが普段過ごしている場所でもある家。
ペルセがエストラから強制帰還させられて、早二ヶ月が経とうとしていた。
人間界で過ごした濃密な二週間、忘れるはずもない。今でも部屋に、ミノトと撮ったプリクラが飾ってある。
プリクラに書かれた『ミノト×ペルセ!人間×悪魔!種族を超えた友情の証!!』という文字もあって、見る度に人間界が恋しくなってしまう。
ちゃんとしたお別れができず、ずっとモヤモヤが残り続けている。時間が経つにつれて薄まってはきていたものの、一人になるとどうしても考えてしまっていた。
「…はぁ…」
ペルセは布団の上で、ウサギのぬいぐるみを抱きしめる。このぬいぐるみも、ミノトと遊びに行った時に、クレーンゲームでゲットしたものだ。時間が経過して少し年季が入ってきているが 、それでもペルセは手放すつもりがなかった。
「ペルセちゃん」
すると、部屋の外からハイーラが声をかけてくる。
一体何の用だろうか。時計を見てみるが、まだご飯には早い時間帯だ。
「…なに…?」
「あなたにお客さんが来てるわ」
「客?」
自分に客。特に予定はなかったはずだが、一体誰なんだろうか。
不思議に思いながら、ペルセは部屋を出て、玄関へと向かった。
玄関にはイアノと、そしてラウラが立っていた。
「イアノお姉ちゃん…?それに、ラウラ先生も…」
二人が一緒にいること自体は、おかしなことではない。イアノから見たら、ラウラは妹のような存在だろう。実際、ラウラはイアノの妹であるヴァーレアと共通の肉体を使用しているわけだし。
だが、わざわざ自分のところにまで来るのは、普通ではない。何か、あったのだろうか。
すると、ラウラが深々と頭を下げてきた。
「ペルセさん。今日をもって、私は人間界へ帰ることになりました」
「えっ…?」
人間界へ、帰る?ラウラは確かに、そう言った。
その言葉を理解するのに、若干時間がかかった。
そもそも、自分もそうなのだが、ラウラもソロモニアから狙われる、という理由で避難してきている。だが、その後どうなってるのかについては、ペルセはほとんど何も聞いていない。
ーーーだから、意味が分からなかった。
「あ、え、帰っちゃうんですか?」
「はい。義理を通し、挨拶だけでもと思いまして」
オロオロするペルセに、頭を上げたラウラは変わらない無表情を向けてきた。
ソロモニアはどうなったのか。ドゥローラという国は。エストラはどうなってるのか。
聞きたいことは山のようにあるが、ペルセの口は動いてくれない。そんなペルセを察したのか、イアノが先に口を開いた。
「人間界の安全面が確認されましたからね。ラウラさんを元のご住居にお送りいたしますの」
そう言うイアノは、少し寂しそうだった。しかし同時に、嬉しそうでもあった。
ラウラはそのまま、本当に踵を返した。
それだけで終わるのは合理的なラウラらしいが、何だか無性に寂しくなった。
「…ラウラ先生」
ペルセは無意識に、ラウラを呼んでいた。その声で、ラウラの動きが止まり、こちらを振り向いた。
何か用があったわけではない。不思議そうに見つめてくるラウラに対し、ペルセはしばらく言葉を発することができなかった。
ーーーここでラウラと別れたら、ほんの僅かに残っていた人間界との繋がりが、切れてしまう。なぜか分からないが、ペルセはそんなことを考えていた。
それを察したのか、イアノが穏やかに微笑んだ。
「悲しむ必要はありませんわ。魔界と人間界の交流事業は、近いうちに再開予定ですから」
「へ…?」
「では、失礼します」
イアノはそれだけ言うと、ラウラを連れてその場を去っていく。
交流事業が、再開?一体、どういうことなのか。
ーーーもしかして、自分の留学に関して、何か進展があったのか。
ペルセの心の中に、わずかな希望が芽生えたのだった。




