虚無の反撃
「…捏造ではない…!!」
さすがに、ヨルゼフとて黙っていられなかった。
エスカンの国民である、ラウラの意見陳述。そしてそれを裏付ける、魔界の公的な記録。それを「捏造」の一言で片付けられるのは、さすがに我慢ができなかった。
「魔界にも確認を取った、正式な資料だ!…それ以前に、我が国民の魂の叫び…!そして、突然家族を奪われた親の、悲痛な記録だ!!」
「…ヨルゼフ国王、静粛に」
思わず、感情的に叫んでしまう。裁判官からもたしなめられてしまった。
まだ言い足りないくらいなのだが、ヨルゼフは渋々元の席へ腰かけた。
「…それで、レボルタ国王。貴殿はこの事件を認識していたのか?」
「よくできてんなぁ、この捏造資料。うちの公的記録とは大違いだ」
レボルタはソロモニア首領ほど苦し紛れな様子はなく、むしろ鼻で笑っている。どうやら、ドゥローラ側にも記録はあるらしい。
だが、以前会合の時も言っていた。ドゥローラの記録には、ラウラが悪魔を奪って逃げた結果、国が崩壊しかけた、という旨の内容が記されている、と。
「大違い、と言うと?」
「うちの正式な資料じゃ、ラウラが意図的に裏切って、ソロモニアが召喚した悪魔も奪って逃げたことになってんだよ。こんな悲痛な背景なんざ書かれてねぇ」
レボルタは太々しい態度を崩さないまま、嘲笑している。
さすがに国の公的な記録が相手となると、裁判官も無視することはできないのだろう。提出した資料の真偽と、レボルタの証言の真偽を判断しかねてるようで、言葉が止まってしまった。
「だからよぉ…そこにいるサルにも言ったが、俺を裁くんなら、まず先に国を裏切って、俺らのものになるはずだった悪魔を奪ったラウラを、ここに呼ぶべきだろうが。こんな同情引くような、姑息な真似までしやがって…」
レボルタはヨルゼフを一瞥し、そう言い放つ。ここまで堂々と言われてしまうと、裁判官も判断に困るだろう。
「…レボルタ国王。そこまで言い切るからには、それを示す資料はあるのですか?」
「あるに決まってんだろ?ちゃーんとした、国の正式記録だ。お前らと違って、捏造でも何でもねぇ」
レボルタはそう言うと、若干ふやけた紙を平然と差し出す。周りにいた職員が受け取って、裁判官の元へと持っていく。
裁判官達が、その資料を静かにめくる。レボルタはその様子を見ながら、これ以上ないほどのドヤ顔をしていた。
国の正式な資料。中立を守らねばならない国際司法裁判所からすると、きちんと見なければならない資料なのだろう。
ーーーもしや、これで鼻っ柱をへし折るつもりで、あえて事前に出さず後出ししたのか。だとするなら、レボルタもそれなりに考えた上で、この裁判に臨んだのだろう。
しばし、無言の時間が流れる。時計の針が刻まれる音と、時折鳴る紙のこすれる音が、裁判所内に響いていた。
数分ほど経つと、裁判官達が紙をまとめた。
「…確かに、資料としては有効ですね」
「だろ?つまり、俺は正しいってことだ」
裁判官の言葉に、レボルタは嬉しそうに笑った。だが、続けて放たれた裁判官の言葉に、再び顔色を失うことになった。
「それで?この召喚された悪魔が、ドゥローラの国のものであったという証拠はあるのですか?」
「…は?」
「奪われた、と認識されているのならば、その悪魔は国の所有物と認識していたのですよね?ですが、実際は一月ほど後に、ラウラさんと契約されてる。これは、矛盾しますよね?」
裁判官の一言は、冷徹だった。




