サトゥニアの判断
サトゥニアは一瞬言葉に詰まる。
あの事件は機密事項ではないが、魔界の悪魔ではない者が知る術など、そうそうないはずだ。
事件について詳しく聞きたい、というのなら話は分かる。だが、真偽を知りたい、となると話が一段階上だ。なぜなら、詳細を相手が把握してる可能性が高いからだ。
「…その事件を、どこまでご存知ですか?」
だからこそ、探る必要があった。サトゥニアは冷静に尋ねた。
電話の向こうからは、紙のこすれる音がする。資料か何かが手元にあるのだろうか。しばらくすると、ヨルゼフが口を開いた。
「実は本日、ラウラさんからエスカン王国意見箱に意見陳述書が投函されてることが確認されまして。そこに、ラウラさんとヴァーレアさんがソロモニアから受けた被害、及び因縁の経緯について細かく記載されておりました」
「…ラウラから…?」
「はい。ゴエティフス家独自の資料のコピーも添付されておりました」
ーーー閉口せざるを得ない。
ラウラは今現在、魔界で保護している。彼女と肉体を共有するヴァーレアの実家であるゴエティフス家に住まわせていた。
ヴァーレアも子供ではない。ゴエティフス家の次女であるヴァーレアであれば、あの時の事件に関する家の記録にアクセスすることも、不可能ではないだろう。
「…ソロモニア側の動機までは、我々は知らない」
「そうですよね…」
「だがな…」
サトゥニアはそこまで言うと、一度息を吐いた。
頭の中で、アモディエナへ依頼する必要資料を整理する。すでにゴエティフス家視点の調査資料があるならば、必要なのはーーー
「ヴァーレアが強制召喚されたことそのものは、本当のことです。口で説明してもいいですが、後程こちらから資料を送る」
「は…?え…資料…?」
「ゴエティフス家次女が行方不明という大事件、当時魔界でも大騒ぎになったのでな。その公的な調査資料は残されているはずですから、そのコピーをお送りします」
そう言うと、ヨルゼフは絶句していた。
口頭で話すことは簡単だ。だが、ラウラも根拠資料を添付してきた以上、こちらも同じように資料を添付した方がよいだろう。
ヨルゼフ側の負荷は増えてしまうが、根拠としては積み上がるはずだ。
「…良いのですか…?」
「構いません。後程お送りいたします。明日中には送れるか、と」
「ありがとうございます」
「では、失礼します」
「えぇ」
それだけやりとりをすると、通話は切れた。
だが、これで終わりではない。サトゥニアは即座に、アモディエナへ魔力通話をかけた。通話をかけ始めて間もなく、アモディエナは電話に出てくれた。
「はい、魔王様」
「先程の一件だ。ヴァーレア事件の公的資料一式のコピーを、ヨルゼフ国王へと送る。資料を探し出し、なるべく早く送れ」
「すでに抽出は完了しております。あとは個人情報の黒塗り作業のみです」
「助かる」
ーーーさすが、実務家のアモディエナだ。自分がヨルゼフと電話する前から作業を開始していたとは言え、仕事が早い。
この調子なら、明日中と言わずとも、今日中に送れそうだ。
「任せても大丈夫か?」
「お任せください。お休み中のところ、お手数おかけしました」
「構わん。資料の送付、頼んだぞ」
「承知しました」
それだけ言うと、通話を切った。
仕事のできる幹部がいてくれて、本当に助かる。おかげで自分も、王としていることができる。
もちろん、クロニオスやデメナに対しても、感謝を忘れていない。サブリナもピーキーなスペックをしているが、扱いさえ間違えなければよいだけなので、非常に有用な幹部だと思っている。
レボルタという国王は、ソロモニアにのみ意識を向けたことで、その感謝を忘れてしまったのかもしれない。そう思うと、国王として以前に、人として失格だろう。
「…ソロモニアの壊滅も、ドゥローラも滅亡も、もう近いな…」
サトゥニアは穏やかに笑うと、ペルセ達のいる鍛錬室へと戻るのだった。




