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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二部 第十一章 ドゥローラへの裁き

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エストラ講師からの連絡

 その日の夜。

 魔界のゴエティフス家の屋敷の部屋からは、呆れたような声が聞こえてきていた。


 いつものヴァーレアの明るい声色ではなく、むしろ対極となる冷静な声色だった。


「…っちゅうことがあってな!?いやー、アレは想像以上に酷かったばい!」

「いきなり電話寄越してきたと思ったら、急に何ですか…」


 予告もなしにいきなり、エストラの同僚エルフィーが魔力通話をかけてきたことに、ラウラは若干鬱陶しさを感じていた。だが、電話の向こう側のエルフィーは、ラウラの感情などまるで意にも介していないかのように、言葉を続けた。


「いやな、今日はエストラが休みやったし、薬の納品をしに行ったんよ?ついでにドゥローラに軽く寄ってみたら、たった二週間くらいでどうやってこんなことになった!?って状況やったとよ?」

「それは先程聞きましたから、分かってます」


 エルフィーの言ってることが本当なら、数日前のヨルゼフの手紙から伝わっていたドゥローラ国内の状況が、さらに悪化していることになる。


 研究者の流出だけではない。国内の富裕層や政財界の関係者などまで、国に見切りをつけ始め、国外へと逃げている。それが何を意味するのか、ラウラにも理解はできた。


「…ヤバいよね、それ。もう、国としての体裁を保つことすら危ういんじゃ…?」


 ヴァーレアも同じだったようで、ラウラの精神世界で絶句している。エルフィーには聞こえないその言葉が、二人の考えを示していた。


 もちろん、エルフィーの報告は、国としての正式な報告ではない。しかし、見てくれこそ幼いし、態度は軽薄でフランクだが、エストラの講師として大学部の学生にも教えられるほどの切れ者であるエルフィーが、わざわざウソをつくことも考えにくい。


「…つまり、レボルタにとっての最後の支柱は、もはや価値を失ったソロモニアだけ、ということですか」

「多分ね。ウチはそこまで探っとらんばってん」


 ラウラの独り言に、エルフィーは同意した。


 しかし、ソロモニアにしがみついたところで、悪魔の魔力という絶対的なアドバンテージを失い、さらにそれを取り戻すこともできていない組織に、一体何を期待しているのだろうか。悪魔の魔力で周辺国やその他の反発を抑え込み、優位を取れた感覚を忘れられないのだろうか。


 ーーー国王なら時には過去の栄光にすがらず、容赦のない損切りをする場面もあるのではないのか。政治に関わらない一流の投資家ですら、大きな不祥事を起こした会社の株は、引き際を見極めて引き上げるだろうに。


 すると、ヘラヘラしていたエルフィーが、急に真面目な声色で口を開いた。


「…とはいえ、逃げられない国民は気の毒やし、連れてこられた奴隷は悲惨やね。沈むことが確定した泥舟に乗りながらも、もう降りることもできない。個人的には、何とか引き取ってやりたかばってん…」

「それは、周辺国の外交官の仕事です。私達一般国民ができる範囲を超えています」

「そらそうやけどね…」


 エルフィーも歯がゆそうにしている。確かに、現場で飢えた人外の奴隷を何人か見かけた、とは言っており、それを放置していたことについて胸を痛めているのだろう。


 ーーーソロモニアを、ドゥローラを崩壊させる、ダメ押しの一手が必要だ。


「…エルフィー先生。明日、私の方で資料を作ります。でき次第送りますので、それを国への意見陳述書として、私名義で出してくださいますか?」

「ラウラ先生…?何するつもりよ…?」

「…あえて言うなら、トドメの一撃、ですかね」


 ラウラはそう言いながら、表情一つ変えることなく、自身の持つ端末を開き、データの整理を始めるのだった。

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